肥育豚1頭あたりのふん尿に起因する環境負荷ガス発生総量

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要約

汚水浄化と堆肥化処理を基本とするふん尿処理を行うケースで、肥育豚1頭あたりのふん尿に起因する環境負荷ガス発生総量を算定した。肥育全期間中(8週間)の発生量を合計するとアンモニアが271~474 gNH3-N/頭、メタンが270~438 gCH4/頭 および 亜酸化窒素が16.5~49.4 gN2O-N/頭と試算された。

  • キーワード:アンモニア、亜酸化窒素、メタン、畜舎、堆肥化、汚水処理、豚、畜産環境
  • 担当:畜産草地研・畜産環境部・資源化研究室、環境浄化研究室
  • 連絡先:電話029-838-8676、電子メールosada@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:行政・普及

背景・ねらい

地球温暖化問題の解決のため、京都議定書への対応と温室効果ガス発生実態解明は緊急性の高い課題である。このため養豚経営を対象に、もっとも導入事例の多い固液分離型のふん尿処理を想定、環境に負荷を与えるガス発生量の算定を行った(酸性雨原因物質、温室効果ガス)。各種ガス発生が顕著である畜舎内及びふん尿処理(汚水処理、堆肥化処理)の各段階から発生する対象ガスの揮散量を把握する。

成果の内容・特徴

  • 気体の流れを制御し、各試験系への流入気体と排出気体を経時的に把握しうる実験系を作成し、試験系への導入される空気(給気)と試験系から排出される空気(排気)の各ガス濃度を一定時間間隔で測定してその差異を算出し、測定単位時間の換気量(通気量)との積で求めることで単位時間当たり環境負荷ガス発生量を把握した。
  • この試験系の、堆肥化(1~2カ月)あるいは汚水処理(2~3週間)の処理過程全期間、あるいは家畜飼養期間全体(8週間)を評価することで単位ふん尿あたりからの対象ガス発生量が算出した。
  • 固液分離の後、液分は汚水処理、固形分は強制通気型の堆肥化処理ふん尿処理を行うケースで、肥育豚1頭あたりのふん尿に起因する環境負荷ガス発生総量を試験結果から算定し、発生量合計は、アンモニア(NH3)が271~474 gNH3-N/頭、メタン(CH4)が270~438 gCH4/頭 および亜酸化窒素(N2O)が16.5~49.4 gN2O-N/頭と試算された。
  • 肥育全期間中(8週間、20kg~80kgの増体期間)に畜舎内でNH3、CH4 および N2O が発生する量は、それぞれ 138~149 gNH3-N/頭、 268~302 gCH4/頭および 5.4~5.8 gN2O-N/頭と試算された。
  • 豚ふん尿汚水浄化処理からの放出推定値として、NH3については検出限界以下、CH4 については1.8 ~ 7.4 gCH4/頭、N2O については10.7~37.5 gN2O-N/頭の発生が試算された。
  • 堆肥化過程からの放出推定値として、発生は NH3 が133~325 gNH3-N/頭、CH4 が0.2~129 gCH4/頭 および N2O が0.7~6.4 gN2O-N/頭と試算された。
  • この算定値を基に算定を行うと、日本の養豚業から年間0.46 - 0.78 万トンの CH4 発生量が、また年間 479 - 1470トンの N2O 発生量が計上される。

成果の活用面・留意点

  • 豚を代表にして、家畜ふん尿の堆肥化と汚水浄化処理については基本的な発生係数が算定され、京都議定書の締結に必要な不確実性評価が可能な発生原単位(インベントリーデータ)が提案された。精度向上のため、その他の畜種や処理方式についても同様な検討が必要である。
  • 温室効果ガスについては現場での調査データがばらつき、信頼性に乏しい。これは発生変動が大きい事が要因で、精度のよい発生量把握のためには実規模試験での検討も必要と考えられる。
  • 第一約束期間に対する削減技術開発とともに、全ての環境負荷ガスを一律に抑制する手法や費用対効果の高い方式の検討を開始する必要がある。

具体的データ

図1 肥育豚の1頭あたりから発生する NH3、CH4 および N2O

その他

  • 研究課題名:家畜及び家畜糞尿処理過程に由来するCH4、N2O排出量推定の精緻化および
                      排出抑制中核技術の汎用化と普及に関する研究
  • 予算区分:環境総合(環境省)
  • 研究期間:2000~2002年度
  • 研究担当者:長田隆、福本泰之、田中康男、鈴木一好、和木美代子
  • 発表論文等:1) T. Osada, et.al (2002) Greenhouse Gases and Animal Agriculture
                         (Edited by J.Takahashi and B.A.Young, ELSEVIER Science B.V.) , 271-274
                      2) 長田 隆(2002)畜産草地研究所研究報告 2:15-62.
                      3) 長田 隆(2001) 日本畜産学会報 72 (8)167-176.
                      *本研究の測定手法は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で求められるデータ精度に
                         関する指針である「良好手法及び不確実性管理に関する報告書」に基づく日本の畜産廃棄物
                         起源の揮散データ算定の参考資料となった。また、データの一部は「環境省温室効果ガス
                         排出量算定に関する検討結果総括報告書(14年8月)」においてインベントリーデータとして
                         採用された。