心拍数を指標としたニワトリの暑熱適応過程における自律神経系の関与

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要約

心拍数は暑熱適応により次第に減少するのに対し、固有心拍数は暑熱感作によって約20%増加し適応の効果は明確には認められない。常温下では交感神経が優位であるが、暑熱感作により交感神経の関与は直ちに弱まる。一方、副交感神経の変化はそれに遅れ、感作5日目以降で両神経の関係が逆転して副交感神経活動が優位となる。

  • キーワード:暑熱ストレス、適応、自律神経、心拍数、ニワトリ、家畜生理・栄養
  • 担当:畜産草地研・家畜育種繁殖部・上席研究官
  • 連絡先:電話029-838-8640、電子メールoneu@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

夏季の猛暑による家禽産業への影響は大きい。とくに熱波による急激な温熱環境の変化に適応できず、斃死や生産性の低下によって甚大な経済的損失を受ける。暑熱環境への適応性を高める方法として、間歇高温感作に予め暴露することが効果的であるが、ここでは暑熱適応の生理的機構を明らかにする一環として、自律神経支配からみた適応の過程を心拍数を指標として明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 産卵鶏(WL-S)を環境実験室内に設置した単飼ケージに収容し、常温(20℃)から高温(37℃)への急激な感作(4時間/日)を7日間反復する。以下の投与実験は、体温変化がほぼ安定期に入る感作開始2時間後から実施する。心拍数は針電極を用いたA-B誘導法により得られる心電図から5分間隔で求めた。自律神経遮断薬としてアトロピン(副交感神経遮断)及びプロプラノロール(交感神経遮断)それぞれ、2mg/kg体重、8mg/kg体重および両遮断薬混合2mg+8mg/kg体重を腹腔内投与する。遮断薬の効果が定常状態に達した投与後20分から90分までのデータを解析に用いる。
  • 心拍数は暑熱環境への適応過程で常温下と比べて次第に減少する傾向が認められるが、自律神経の支配を受けない心臓固有の心拍数(固有心拍数)は、暑熱環境下では常温下に比べて約20%多く、適応の効果は明確ではない(図1)。このことは、心筋のpacing cellが高温感作によって活性化されることを示している。
  • 常温下では交感神経支配が強いが、初回の高温感作で交感神経支配が急激に弱まる(この時点では副交感神経の関与は常温下と変らない)。しかし、感作3日目で副交感神経の支配が強まって両者の支配が拮抗するようになり、5日目以降では両者の関係が逆転して副交感神経支配が優勢となる(図2)。これらのことから、適応に伴う両神経系の関与は互いに拮抗し合う関係で直線的に変化するのではなく、それぞれが異なる時系列的変化を経て安定化するものと思われる。

成果の活用面・留意点

  • 暑熱ストレスの動物への影響評価と適応状況の判別に利用できる。交感神経抑制による暑熱ストレス軽減化の可能性を示唆している。
  • 自律神経遮断薬の効果が動物種で異なる可能性があるので、投与量の設定には事前の検討が必要。
  • 暑熱ストレス下での副交感神経遮断薬の投与は、負荷を増強することになるので動物福祉上の配慮が必要。

具体的データ

図1. 交感神経ならびに副交感神経遮断薬投与に対する心拍数の反応 図中の棒線はSDを示す。

 

図2.心拍数の調節に対する交感神経と副交感神経の関与

その他

  • 研究課題名:家禽における暑熱環境適応過程の生理機構解明と育種への利用
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2005年度
  • 研究担当者:上野孝志