簡単にウシ子宮内膜上皮細胞を分離する方法

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要約

ウシ子宮内膜を0.76% EDTA-PBS前培養後、内膜面を掻き取り、酵素分散とパーコール処理により上皮細胞を分離し、コラーゲン処理した培養皿に播種し無血清培養する。この方法により間質細胞などの混入が極めて少ない初代上皮細胞が簡単に得られる。

  • キーワード:家畜育種・繁殖、ウシ、子宮内膜上皮、無血清培養
  • 担当:畜産草地研・家畜育種繁殖部・受胎機構研究室、上席研究官(繁殖担当)
  • 連絡先:電話029-838-8637、電子メールorca@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

妊娠認識機構を明らかにするには、ウシ子宮内膜を用いた細胞培養系を利用する方法が一手段として挙げられる。子宮内膜を主に構成する内膜上皮細胞と間質細胞は性質が異なることが知られており、上皮細胞の機能を解析するためには間質細胞の除去が不可欠である。しかし、通常の血清を用いた培養法では血清が間質細胞の増殖を促進することが知られている。また、現在広く行われている手法では基底膜下を含む内膜全体を酵素処理するため、間質細胞の混入を除去するために多大な労力が払われている。
そこで、簡便にウシ子宮内膜上皮細胞から間質細胞を分離採取する方法を確立するとともに無血清培養した細胞の性質を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • と場由来の子宮を用い、卵巣と分離した子宮体部へ0.76% EDTA-PBSを注入し前培養を行う。子宮を開き内膜面のみを掻き取る。処理前後の子宮組織を免疫染色にて観察すると、基底膜上部の上皮細胞だけが採取できることを確認できる(図2)。
  • EDTA処理後、酵素分散ならびにパーコール処理(図1:上皮細胞の分画)により内膜上皮細胞を単離し、コラーゲン処理した培養皿を用いてDMEM/Ham's F12に成長因子ならびに抗生物質を加えた培養液を用い無血清培養する(図3A)。播種後5~7日目に単層に達し(図3B)、増殖した細胞群は上皮性細胞に特徴的な敷石状の形になり、免疫化学的染色でも上皮細胞のマーカーであるサイトケラチンに陽性、間質細胞のマーカーであるビメンチンに陰性である。
  • 培養細胞に100 nM oxytocinを加えるとPGF2α分泌量は、基底分泌より有意に増加する(図4)。本方法により分離培養したウシの子宮内膜上皮細胞はoxytocinへの応答性を保持している。

成果の活用面・留意点

  • 基底膜上の細胞のみを酵素処理・パーコール処理することにより、内膜上皮細胞だけを簡単に短時間で分離できる。さらに無血清で培養することにより間質細胞の混入が無くなる。このウシ子宮内膜上皮細胞の無血清培養系は、ウシの妊娠認識機構の解析等に有用である。
  • 得られる内膜上皮細胞数は子宮を得た個体の産歴、発情周期などによるが、経産個体に比べ未経産個体から得られる細胞数が多い傾向にある。

具体的データ

図1 ウシ子宮内膜上皮細胞分離の手順

 

図2 EDTA 処理後の子宮内膜 図3 培養子宮内膜上皮細胞

 

図4 Oxytocin による上皮細胞からのPGF2 産生

その他

  • 研究課題名:妊娠初期の子宮内膜に及ぼすサイトカインの影響
                      受胎・妊娠認識機構の解明
  • 予算区分:サイトカイン、基礎的研究推進事業(バイオ胎盤)
  • 研究期間:1997~2002年度
  • 研究担当者:高橋ひとみ、高橋昌志、下司雅也、岡野彰
  • 発表論文等:Takahashi et al., (2001) The Journal of Reproduction and Development. 47(3): 181-187.