MAP付着回収法による豚舎汚水中リンの回収技術

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要約

豚舎汚水中のリンをリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP:MgNH4PO4・6H2O)の結晶として不溶化させるMAPリアクターにて、曝気筒中に浸せきさせた材料表面にMAPを付着させることにより、MAPを約95%の純度で回収することができる。

  • キーワード:豚舎汚水、リン、MAP、付着、回収、畜産環境、ブタ
  • 担当:畜産草地研・畜産環境部・環境浄化研究室
  • 連絡先:電話 029-838-8677、電子メール szkazu@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

わが国には採掘可能なリン資源は存在せず必要とするリンの全量を輸入に頼っている上、リンは有限資源であることなどから、汚水や廃棄物などからのリンの 回収・再資源化が必要である。そこで、高濃度のリンを含有する豚舎汚水から、リンを純度約95%のMAP結晶として回収する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 曝気により豚舎汚水のpHを上昇させて汚水中のリン酸をMAPなどへ結晶化させるMAPリアクター(図1)の曝気筒中に、金属材料や樹脂材料等を浸せきさせることにより、その表面にMAP結晶を付着させ回収することができる。
  • 表面の粗い材料であればいずれも比較的多量のMAPを付着させることができる(表1)。また、いずれの材料表面に付着したMAPも軽いブラッシングで容易に剥ぎ落とすことができる。得られるMAPの純度はおよそ95%で、残り5%の大部分は有機物である。
  • MAP付着回収用部材は、強度保持および軽量化を考慮し、ステンレスワイヤー製のメッシュによる構成が望ましい。当該材料製の研究用部材(15 x 40cm、間隔各1cm、ワイヤー直径約1mm)では、1ヶ月間の浸せきで1.04kgのMAPを付着回収できた(図2)。なお、回収したMAPはシート 等の上に広げて1~数日で乾燥させることができる。
  • 当該技術は、pHが7.5以下でMAP反応に必要なアンモニウムイオン、リン酸イオン、マグネシウムイオンが結晶化することなく残っている豚舎汚水につき、その能力を発揮する。なおマグネシウムを補給して回収能力を向上させることも可能である(図1)。
  • 計算上、10m3の豚舎汚水からは最大で約4KgのMAPを回収することができる。また、当該技術の運転コストは、母豚100頭規模の養豚経営で年間約20万円である。

成果の活用面・留意点

  • 回収MAPは有機物含量が僅かなので脱水や堆肥化、成分濃度分析等は不要で、そのままで農地にて利用できる。なおMAPは肥料として利用できることが既に知られている。
  • 当該技術は豚舎汚水処理の前処理段階にて実施することが望ましい。
  • 曝気筒中の発泡が激しい場合は油を滴下することにより泡の発生を抑えることができる。図1のMAPリアクターではサラダ油を70ml/日の割合で滴下させている。
  • 実際にMAP付着回収技術を実施する場合、MAPの付着により回収用部材の重量は増大するので、ウインチやアングル等の設備を付設することが望ましい(図3)。
  • 汚水中リン濃度の低減化が主な目的でMAPを積極的に回収しない場合は、畜産草地研究成果情報No.1, 87-88 (2002)に記載の技術を用いることができる。MAPリアクターの詳細についてもこれを参照されたい。なお汚水量が異なる場合は、リアクターの縦方向の サイズはそのままで水平方向のサイズを増減させ、散気盤数も増減させるとともに通気量も汚水量に比例して増減させることが望ましい。

具体的データ

図1 MAPリアクターの概略図 図2 研究用MAP付着回収用部材を1ヶ月間曝気筒中に浸せきさせた場合のMAPの付着状況  図3 MAP付着回収設備によるリン回収の概略図

 

その他

  • 研究課題名:豚舎汚水からのMAP反応等によるリン除去・回収技術の開発
  • 課題ID:12-08-01-*-14-03
  • 予算区分:バイオリサイクル
  • 研究期間:2002~2005年度
  • 研究担当者:鈴木一好、田中康男、黒田和孝、花島大、福本泰之、長田隆、和木美代子
  • 発表論文等:1) Suzuki et al. (2002) Water Res. 26(12):2991-2998.
                     2) 鈴木 (2004) 関東畜産学会報 54(1):11-19.
                     3) 鈴木ら (2003) 特願2003-388065