ブタ皮下脂肪前駆細胞株(PSPA)の樹立
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要約
西洋種交雑豚(LWD×L)胎仔の皮下組織より樹立した長期培養可能な脂肪前駆細胞株(PSPA)は、ブタの脂肪を研究するための簡便なin vitroモデル系として利用できる。
- キーワード:畜産物、ブタ、背脂肪、脂肪細胞分化、クローニング
- 担当:畜産草地研・品質開発部・食肉特性研究室
- 連絡先:電話029-838-8686、電子メールikuyon@affrc.go.jp
- 区分:畜産草地
- 分類:科学・普及
背景・ねらい
豚枝肉取引規格からも明らかなように、ブタの肉質評価に背脂肪の厚さや脂肪の色・質が占める比重は大きく、ブタの脂肪を制御するべく様々な試みがなされ ている。しかし、ブタの脂肪組織の発達及びそれらを構成する脂肪細胞の分化機構等の基本的なメカニズムに基づいた制御は、道具となるブタ由来の脂肪細胞株 が存在しない為に不可能であった。
そこで、実験材料として安定的に供給可能なブタの脂肪形成の簡便なモデル系となる脂肪前駆細胞株(PSPA)をクローニングにより樹立した。
成果の内容・特徴
- 未分化なPSPAは通常線維芽細胞様の形態を示し(図1A)、80代以上の継代が可能である。
- PSPAを増殖培地(10%牛胎児血清(FCS)を含むDMEM)でそのまま培養し続けても自発的に脂肪を蓄積することはなく前駆細胞の状態が維持される(図1Bと図2)。
- 脂肪細胞への分化誘導培地には、10% FCSを含むグルコース濃度の高いDMEMに5μg/mlインスリン、0.25μMデキサメタゾン、33μMビオチン、17μMパントテン酸、5mMオク タン酸を添加したものが適当であり、この培地で10日間処理すると細胞質内を油滴で満たす脂肪細胞が得られる(図1Cと図2)。
- PSPAは、継代数60代を過ぎても脂肪細胞への分化能を十分有する。
- 最も汎用性の高いマウス脂肪前駆細胞株3T3-L1で一般的に使用される分化培地は、PSPAの細胞数を増殖培地同様に増加させ、トリグリセリド(TG)を蓄積させる効果はない(図3)。
成果の活用面・留意点
- ブタの脂肪研究の為の簡便なin vitroモデル系として、長期間、安定した状態の細胞を利用することが可能となり、初代培養による異種細胞の混在に起因する結果への懸念がなくなる。
- PSPAと3T3-L1では誘導因子に対する反応性が異なることから、マウスを代替としてブタの試験研究に利用するのは望ましくないと考えられる。
- 本細胞株の分譲を希望する場合は相談されたい。
具体的データ

その他
- 研究課題名:食肉形成に及ぼす結合組織機能の解明
- 課題ID:12-04-01-03-08-02
- 予算区分:交付金
- 研究期間:1999~2002年度
- 研究担当者:中島郁世、室谷進、千国幸一
- 発表論文等:1) 中島ら、ブタ脂肪前駆細胞株とその分化誘導方法、特開2003-116528.
2) Nakajima et al. (2003) Biochem. Biophys. Res. Commun. 309:702-708.