筋肉構成因子の発現は筋分化調節因子MyoDに支配され、Myf5に影響されない

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要約

同様の役割を担うと考えられてきた筋分化調節因子MyoDと Myf5は、ウシ培養筋衛星細胞の分化に対する作用を異にする。Myf5は筋管形成を制御するが、MyoDは筋管形成だけでなくα integrin分子群および筋収縮タンパク質の発現をも制御する。

  • キーワード:ウシ、家畜生理、筋衛星細胞、筋管形成、筋分化調節因子、Myf5、MyoD
  • 担当:畜産草地研・品質開発部・食肉特性研究室
  • 連絡先:電話029-838-8686、電子メールmuros@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

家畜成体の筋衛星細胞の能力を最大限に引き出し骨格筋の発達を促進させることは、家畜の肉量増産に寄与する。そのためには、筋衛星細胞を起点とする骨格 筋の発達の仕組みを分子レベルで詳細に把握する必要がある。筋分化調節因子Myf5とMyoDは互いに機能が酷似しており、筋衛星細胞における機能の相違 については未解明である。本成果は、ウシ骨格筋由来の筋衛星細胞を培養し、アンチセンスオリゴDNAを用いて骨格筋形成の初期段階である筋管形成における Myf5とMyoDの役割について明らかにするものである。

成果の内容・特徴

  • 設計したMyoDおよびMyf5のホスホロチオエイト化アンチセンス配列およびコントロール配列オリゴDNA(AS-ODNおよびC-ODN)は、表1に示すものである。
  • MyoDおよびMyf5のAS-ODNまたはC-ODNを培地に添加すると、MyoD、Myf5ともにC-ODN添加区で は、分化誘導4日目に無添加区と同様に筋管が形成されるのに対し、AS-ODN添加区では筋管形成が阻害される(図1)。MyoDおよびMyf5はウシ筋 衛星細胞の筋管形成を制御すると考えられる。
  • 両AS-ODNは標的遺伝子の発現をそれぞれ抑制する。MyoDおよびMyf5のAS-ODNが、筋管形成を抑制する場合、 細胞接着分子α4、α5、α6、α7 integrinの発現に及ぼす影響についてRT-PCRで解析すると、MyoD AS-ODNの添加により、α4、α5、α7 integrinの発現が抑制される傾向が認められる(表2)。一方、Myf5のAS-ODNの添加による影響は認められない。MyoDはα4、α5、 α7 integrin遺伝子を活性化させて筋管形成を制御し、Myf5はMyoDとは異なる経路で筋管形成を制御すると考えられる。
  • MyoDおよびMyf5のAS-ODNが筋管形成過程の生化学的分化に与える影響について、myosin heavy chain(MyHC emb)および2種のトロポニンTアイソフォーム(fTnT、sTnT)の発現の変動をRT-PCRで調べると、MyoD AS-ODNの添加区では、MyHC emb、fTnTおよびsTnTの発現が抑制される。一方、Myf5 AS-ODNの添加による影響は認められない(表2)。これより、筋衛星細胞の生化学的分化には、MyoD がより強い影響を及ぼし、Myf5は影響を与えないと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本研究成果は、骨格筋の成長や再生に関する知見として、医療や畜産の基礎研究分野において活用することができる。
  • AS-ODNは、用いる細胞の種類や状態によって効果が異なることがあるので再現性等に注意する必要がある。

具体的データ

表1.培地に添加したオリゴDNAの塩基配列. 図1(左).アンチセンスオリゴDNAの添加による筋管形成の阻害.分化誘導後4日目に観察 表2.MyoDおよびMyf5アンチセンス配列オリゴDNAがα integrin分子群と筋収縮タンパク質の発現に及ぼす影響

 

その他

  • 研究課題名:家畜筋芽細胞の筋管形成機構の解明と制御技術の開発
  • 課題ID:12-04-02-03-10-03
  • 予算区分:形態・生理
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:室谷進、千国幸一、中島郁世