完全雄性不稔ライグラス類の作出方法
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要約
雄性不稔細胞質を持つイタリアンライグラスにペレニアルライグラスの特定の個体を交配すると、その後代は高頻度で完全雄性不稔になる。これら特定の個体を用いることにより、完全雄性不稔ライグラス類の作出が可能である。
- キーワード:ペレニアルライグラス、イタリアンライグラス、細胞質雄性不稔、飼料作物育種
- 担当:畜産草地研・飼料作物開発部・牧草育種法研究室
- 連絡先:電話0287-37-7550、電子メールarakawa@affrc.go.jp
- 区分:畜産草地
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
ライグラス類とトールフェスクとの交雑によるF1フェストロリウムは、永続性と高品質を兼ね備えた温暖地向け新型牧草として期待されているが、その効率
的なF1採種のためには種子親として完全雄性不稔ライグラス類が必要である。これまでに、イタリアンライグラスにおいて雄性不稔細胞質を用いて完全雄性不
稔系統の育成を進めているが、その目途は得られていない。
そこで、イタリアンライグラスの雄性不稔細胞質とペレニアルライグラスの核遺伝子の組み合わせから完全不稔ライグラス類を作出する方法を検討する。
成果の内容・特徴
- 雄性不稔細胞質を持つイタリアンライグラスにペレニアルライグラス品種「キヨサト」由来の個体(キヨサト1およびキヨサト
2)を交配すると、種子親として用いたイタリアンライグラスの表現型が不稔(MS1)の場合でも、可稔(MF2)の場合でも、その後代は全個体が完全雄性
不稔になる(表1)。
- 一方、MS1に、正常細胞質を持つ雄性不稔性維持能の高いイタリアンライグラス個体MT1およびMT2交配後代(MT-P1)を交配した場合、その後代の完全不稔個体割合は最高でも88%であり(表2)、キヨサト1やキヨサト2の場合と比較して低い。
- MF2にペレニアルライグラスの他の品種(Saturn ,Dandy, CitationII)を交配すると、その後代には可稔の個体が出現する(表3)。また、その稔性回復の程度は、遺伝子型により異なる。
- また、MS1とキヨサト1またはキヨサト2を交配した後代に、キヨサト40個体を花粉親として得られた後代にも、低頻度で可稔個体が出現する(表4)。このことはキヨサトの中にも低頻度であるが、花粉稔性を回復させる個体が含まれることを示唆する。
- 以上により、イタリアンライグラス雄性不稔細胞質を持つ個体を1回親とし、ペレニアルライグラスから雄性不稔維持能で選抜された核遺伝子型を反復親とした反復戻し交雑により、完全雄性不稔ライグラス類を作出することが出来る可能性が示唆される。
成果の活用面・留意点
- 完全雄性不稔ライグラス類系統は、F1育種の種子親としてだけでなく、道路のり面等の緑化植物としても期待される。
- 一般にペレニアルライグラスはトールフェスクとの交雑親和性が低いため、F1フェストロリウムの種子親として利用するためには、遺伝的に交雑親和性を高める必要がある。
具体的データ
その他
- 研究課題名:温暖地転作田向けフェストロリウム新系統の育成
- 課題ID:12-05-03-01-10-03
- 予算区分:ブラニチ3系
- 研究期間:2003~2005年度
- 研究担当者:荒川明、藤森雅博、杉田紳一、小松敏憲、内山和宏
- 発表論文等:荒川ら (2003) 特願2003-016546