黒ボク土からなる傾斜草地流域における雨水の流出と浸透

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要約

傾斜草地の谷部地表面では、3~4mm/5min(35~50mm/h)をこえる強度の降雨により地表流出が発生し、この強度は浸透能の下限に対応する。 また尾根型斜面では、浸透した雨水は地表下20~40cm深において側方移動し、谷部に達して深部へ浸透し湧水を形成する。

  • キーワード:牧草、放牧、永年草地、流域、浸透、流出
  • 担当:畜産草地研・山地畜産研究部・草地土壌研究室
  • 連絡先:電話0267-32-0761、電子メールosayama@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

山地傾斜草地においては崩壊やガリの発生や、過剰に蓄積された窒素などの養分の流出が懸念される。山地傾斜草地を良好に維持管理するためには、流域全体の 水文現象の解明にもとづいて保全利用技術を開発することが必要である。そこで、ここでは長野県御代田町における実測事例を検討し、傾斜草地流域内での雨水 の流出と浸透を解明する。

成果の内容・特徴

  • 土壌は腐植質黒ボク土で構成され、放牧草地の面積割合が51~74%である流域の谷部において、地表流出は急傾斜 (>15度)な上流(A地点)ではほぼ3~4mm/5min(35~50mm/h)をこえる強雨に伴って生じる(図1、2)。これに対し、緩傾斜地 (<8度)(B地点)では地表流出量は少なく、水流は緩傾斜谷底(A-B地点間)で浸透する。流域界から1300m下流の谷底(C地点)では、年間 を通して湧水からの流出がある。
  • 草地地表面の浸透能Ibdは、平均130mm/h(範囲50~342)を示し、尾根部上部と谷部では地表傾斜の小さい程、増加する(図3)。谷部では尾根部上部と比べ、Ibdは50 mm/h程度で小さく、地表流出の発生する降雨強度(4mm/5min)に対応する。
  • 尾根部の表層土壌の飽和透水係数は20~40cm深において10 -4 m/sの極大を示し100cm深では10 -6 m/sに低下する(図4)。これから20~40cm深付近では側方への水分移動が推定される。谷部では10 -5~10 -4 m/sでほぼ一定で下方への浸透が生じる。
  • これらから草地の尾根部では比較的大きな浸透能Ibdのため浸透した土壌水は、地下20cm付近において、側方へ移動する。谷部では尾根部から移動した水分を含めて100cmより深部へ浸透移動して下流で湧水を形成する。

成果の活用面・留意点

  • 黒ボク土壌で構成される傾斜草地の地形ごとの土壌水分および地表流出の実態資料として、また養分流出の検討資料として役立てることができる。
  • 非火山灰質の土壌については、透水係数などの水文特性が異なるため別途検討が必要である。

具体的データ

図1 試験流域の土地利用と観測点 図2 降雨にともなう流出の発生

 

図3 草地の地表傾斜角と浸透能の関係 図4 尾根部における土壌飽和透水係数の深さ方向の変化

 

その他

  • 研究課題名:傾斜放牧草地における流域水文の解明
  • 課題ID:12-07-02-*-04-03
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:山本博