牛自身からの亜酸化窒素排出量

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要約

牛自身からの亜酸化窒素排出量はほとんどなく、年間で1頭当たり2.64±1.65g-N2O-Nであり、世界で飼養されている牛からの排出量は3560±2220トンと試算できる。この排出量は、世界からの全亜酸化窒素排出量の約0.02%である。

  • キーワード:ウシ、畜産環境、第一胃、亜酸化窒素、地球温暖化
  • 担当:畜産草地研・家畜生理栄養部・反すう家畜代謝研究室
  • 連絡先:電話029-838-8655、電子メールkurihara@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

反すう家畜由来の亜酸化窒素は、メタンと同様に地球温暖化と深く関係する微量温室効果ガスとして注目されている。牛排泄物由来の亜酸化窒素排出量は、人間 活動由来排泄量の26%と報告(IPCC, 2001)されている。一方、反すう家畜の消化管からの亜酸化窒素については、in vitro試験から少ないと予想されていたが、反すう家畜自身からの亜酸化窒素排出量を定量的に解明した研究はない。そのため、気候変動に関する政府間パ ネル(IPCC)報告では考慮されていない。そこで、牛を呼吸試験装置に収容し、牛自身からの亜酸化窒素排出量を24時間測定するととともに、粗濃比の異 なる(乾乳牛:10:0~4:6、泌乳牛:4:6~6:4)飼料給与の前後に第一胃内の気相の亜酸化窒素含量を測定して、牛自身からの亜酸化窒素排出量を 定量的に明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 呼吸試験装置内の亜酸化窒素濃度は平均339(321~386)ppbであり、呼吸試験装置内外の亜酸化窒素濃度差は平均 17(-3.2~68)ppbである(図1)。呼吸試験装置内における亜酸化窒素排出量は、1日当たり窒素量として平均10.0(4.8~12.7)mg である。
  • 牛(体重600~750kg)の新鮮ふん尿(10:1で混合)からの亜酸化窒素排出量を1日間測定し(表1)、呼吸試験装置内の新鮮ふん尿由来亜酸化窒素排出量を推定した結果、1日当たり窒素量として2.8(0~8.3)mgである。
  • 1および2の結果から牛自身からの亜酸化窒素排出量の推定値は、窒素量として1日当たり5.2±4.2(2.0~9.9)mg、年間2.64±1.65(0.74~3.60)gである。
  • 第一胃(牛の体重:600~750kg)の気相の亜酸化窒素濃度は採食3時間後に高まる傾向を示すが、牛舎内の濃度と差を認めないことから(表2)、第一胃内における亜酸化窒素の発生は少ないものと考えられる。また、給与飼料による差は認められない。
  • 今回の結果と世界で飼養されている牛頭数から、世界の牛自身からの亜酸化窒素排出量を試算すると、窒素量として年間3560±2220トンであり、世界からの全亜酸化窒素排出量の約0.02%である。

成果の活用面・留意点

  • 国別の温室効果ガス排出量を算出する際に、不確定要素の低減に利用できる。
  • 今回測定した牛自身からの亜酸化窒素排出量を、他の反すう家畜に適用する場合には適用する家畜の採食量を考慮する必要がある。

具体的データ

図1.呼吸試験装置への入気および装置内部の亜酸化窒素濃度(代表例)  表1.新鮮糞尿からの亜酸化窒素排泄量 表2.第一胃の気相中亜酸化窒素濃度(ppb)

 

その他

  • 研究課題名:家畜及び家畜糞尿処理過程に由来するCH4、N2O排出量推定の精緻化および排出抑制中核技術の汎用化と普及に関する研究
  • 課題ID :12-08-02-01-04-02
  • 予算区分:環境総合(環境省)
  • 研究期間:2000~2002年度
  • 研究担当者:栗原光規、寺田文典、田鎖直澄、永西修、長田隆、八木一行(農環研)