プラスミドの選択的除去によるスターター用乳酸菌変異株の作出
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要約
Lactococcus属乳酸菌が保有する染色体外遺伝子(プラスミド)を選択的に除去し、変異株を作出する方法を開発した。作出変異株は外来遺伝子を保有せず、食品加工用スターターとして利用できる。
- キーワード:畜産物・品質、加工利用、乳酸菌、プラスミド
- 担当:畜産草地研・品質開発部・微生物利用研究室
- 連絡先:電話029-838-8688、電子メールmihokoba@affrc.go.jp
- 区分:畜産草地
- 分類:科学・普及
背景・ねらい
発酵食品の味や機能性には、スターターとしての乳酸菌の特性が大きく影響する。チーズ製造用乳酸菌Lactococcus lactis は、複数の染色体外遺伝子(プラスミド)を保有し、内在プラスミドの種類や組合せを変えると、発酵産物の味や保存性が変わる。そこで、アクリジンオレンジ等の変異剤を用いず、目的プラスミドの選択的除去による乳酸菌変異菌株の作出法を開発した。作出変異株は外来遺伝子を保有せず、食品加工用のスターターとして利用できる。本法は、変異剤を用いる在来法と異なり、除去プラスミドを限定でき、他の共存プラスミドの保有状況には影響しないため、プラスミドの機能解析にも応用できる。
成果の内容・特徴
- 乳酸菌L. lactis のプラスミドを除去するために、目的のプラスミドと不和合性を示す組換えプラスミドを作製し、これを用いて、任意の内在プラスミドを選択的に除去する方法を開発した。
- プラスミドの不和合性決定配列を特異的に増幅するPCRプライマーセットを設計すると共に、増幅される1.1-kb断片の挿入部位と、エリスロマイシン耐性遺伝子を有するレセプターベクターpDB1を構築した。任意のプラスミドの不和合性決定配列をpDB1に組込むことで、除去用プラスミドpCV(X)を構築できる(図1)。
- 図2には、本法の応用例を示す。L. lactis DRC1株に内在する、極めて安定な7.3-kb機能未知プラスミドpDR1-1Bと不和合性な除去用プラスミドpCV5でDRC1を形質転換し、エリスロマイシン添加培地で継代培養すると、pDR1-1B保有株の割合が経時的に減少する(図2)。
- pCV(X)は、エリスロマイシン無添加培地で培養すると、選択圧が無い状態では複製が不安定であるため、約10回の植継ぎ操作で菌細胞内から消失する。したがって最終的に外来遺伝子を保有しない変異株が得られる。
成果の活用面・留意点
- L. lactis に内在しているプラスミドの大多数は、θ型複製プラスミドである。本法は、θ型複製プラスミドの選択的除去法である。
- 本法によって作出した変異株は、選択的除去のため導入した外来遺伝子を最終的には保有せず、発酵食品のスターターとして使用できる。
- 本法を利用し、従来法では難しい安定なプラスミドの選択的除去も成功している。したがって本法は、プラスミド性遺伝子の機能解析等に広く応用できる。
- レセプターベクターpDB1の分譲を希望する場合には連絡を頂きたい。
具体的データ


その他
- 研究課題名:増殖特性を指標としたLactococcus lactis の多様性の解析
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2002~2004年度
- 研究担当者:小林美穂、野村 将、木元広実、藤田泰仁、鈴木チセ
- 発表論文等:1) 小林ら 特許願 2003-398651.
2) Kobayashi et al. (2003) JARQ 37(1):53-57.