LCA手法による休耕地を活用した濃厚飼料供給システムの環境評価

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

ライフサイクルアセスメント(LCA)手法を用い、国内畜産業への濃厚飼料供給システムを変更した場合の環境影響を評価した。米国産とうもろこしの一部を休耕地に作付けした大麦に代替えすれば、CO2換算量7.8万トンの削減が可能である。

  • キーワード:畜産環境、環境影響評価、家畜、濃厚飼料、休耕地、LCA、CO2換算量、排出権取引
  • 担当:畜産草地研・畜産環境部・畜産環境システム研究室
  • 連絡先:電話029-838-8669、電子メールkouichi@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

畜産環境問題は、耕種農家と畜産生産者がアグリビジネスとして生産活動を行う限り、経営経済的なアプローチと環境負荷に関する影響評価が必要である。
畜産環境問題の改善にあたり、家畜糞尿を堆肥として耕地へ広く還元するに際して重要となるのは、不作付け地(休耕地と耕作放棄地)の活用である。そこで、国内畜産業排泄窒素の資源としての有効利用に関して、国内畜産業への濃厚飼料供給システムを現行システムから休耕地を活用して大麦を作付けし飼料として給与する新システムへ変更した場合の環境負荷を比較検討した。

成果の内容・特徴

  • ライフサイクルアセスメント(LCA)手法を用いて、国内畜産業(牛・豚・鶏)への濃厚飼料供給システムの環境負荷について、国内畜産業から発生する窒素負荷量の40%が揮散し、60%が糞尿として排泄される前提のもと、現行システムと新システムを比較して評価した。
    システム境界は、現行システムでは2000年に米国からの輸入とうもろこしに100%依存すると定めた(図1)。新システムでは、2000年に輸入された917.5万トン(TDN換算量)の米国産とうもろこしの一部を休耕地に大麦を作付けして生産される64.0万トン(TDN 換算量)の国産大麦に代替えし、国内畜産業からの排泄窒素量の4%(2万トン)が、飼料穀物の養分として吸収されて家畜飼料として再利用されるとした(図2)。現行および新システムのいずれにおいても,国内畜産業からの排泄・堆肥化・施肥については差がないので,飼料輸送・国内休耕地と米国での作付けにともなう土壌揮散・飼料生産に関して計算した。
    新システムでは、耕作面積の減少速度を緩和させ、排泄窒素が資源として有効利用されて窒素の循環が成立し、濃厚飼料自給率の向上が期待される。
  • 2000年に新システムを採用すれば、地球温暖化に関する環境負荷(トン/年)に関して、飼料輸送の段階でCO2とN2Oが減少し(図3)、地球温暖化ポテンシャルは、CO2換算量78,462トンの削減が可能であった。
  • 酸性化に関する環境負荷(トン/年)に関して、飼料輸送の段階でSO2は減少し、飼料生産の段階でNOxは増加し、土壌からの揮散の段階でNH3は減少し(図4)、酸性化ポテンシャルは、SO2換算量347トンの削減が可能であった。富栄養化に関する環境負荷(トン/年)に関して、富栄養化ポテンシャルはPO4換算量54トンの削減が可能であり、エネルギー消費量は84.2万GJの削減が可能であった。
    京都議定書第17条にもとづき、国内での排出権取引が将来実施された場合、国内畜産業は、濃厚飼料供給システムを変更することで、地球温暖化ポテンシャルとして7.8万トンCO2換算量を排出権市場に売却できる可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • 排出権取引の取引要項に、製造業などの工業分野だけでなく農業分野からの参加を想定した条項が盛り込まれた場合に限り,畜産分野からの排出権取引参加の可能性がある。

具体的データ

図1.濃厚飼料の国内畜産業への現行供給システム 図2.濃厚飼料の国内畜産業への新供給システム

 

図3.温暖化に関する環境負荷

 

図4.酸性化に関する環境負荷

その他

  • 研究課題名:畜産環境問題の経済経営的アプローチ
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2002~2006年度
  • 研究担当者:賀来康一、荻野暁史、島田和宏
  • 発表論文等:Kaku et al. (2004) Asian-Aus.J.Anim.Sci.17(7):1026-1032.