アーバスキュラー菌根菌に特有の細胞内小器官

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要約

アーバスキュラー菌根菌の菌糸中には、非常に発達した管状構造を有する液胞と、液胞よりも酸性の強い小胞が多数存在している。土壌から吸収したリン酸の宿主植物までの長距離輸送に、これらの細胞内小器官が関与していると考えられる。

  • キーワード:アーバスキュラー菌根菌、リン輸送、管状液胞、酸性小胞、共生微生物、永年草地
  • 担当:畜産草地研・草地生態部・土壌生態研究室
  • 連絡先:電話0287-37-7227、電子メールshotaro@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

植物の根に共生するアーバスキュラー菌根菌(VA菌根菌)は、土壌中の希薄なリン酸を効率よく吸収し、宿主植物へ供給することによって、植物のリン栄養を改善する。このことからアーバスキュラー菌根菌はリン資源の節減のために有用な微生物である。アーバスキュラー菌根菌の菌糸中では、酸性細胞内小器官にリン酸が蓄積され、細胞質流動によって輸送されると考えられている。共焦点レーザー顕微鏡での観察を行うことによって、こうしたリン酸長距離輸送を担っている細胞内小器官の実体を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • アーバスキュラー菌根菌Gigaspora margaritaの菌糸を、酸性の組織を染める蛍光色素LysoTrackerと中性脂肪を染めるBODIPY 493/503で染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察することにより、液胞よりも酸性の強い小胞の存在を初めて見出し、その動的な観察に成功した。菌糸内には、非常に多くの酸性小胞(直径0.3-0.7 μm)と脂肪体(直径0.3-3.0 μm)が存在しており(図1、中)、原形質流動によって双方向に移動している。
  • G. margaritaの菌糸を、蛍光色素LysoTrackerと液胞を染める蛍光色素DFFDAで染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。菌糸中の液胞は、きわめて発達した管状構造を有しており、酸性小胞と管状液胞は別々の細胞小器官である(図1、下)。以上の知見から、菌糸内は図2に示す構造を有する。
  • 酸性細胞内小器官である酸性小胞と管状液胞が、菌根菌の菌糸中のリン酸長距離輸送に関与している可能性を示している。

成果の活用面・留意点

  • 酸性小胞や管状液胞の体積などを定量化することで、リン酸輸送活性を推定する指標として利用できる可能性がある。
  • アーバスキュラー菌根菌によって取り込まれたリン酸はポリリン酸として貯蔵・輸送されると考えられている。菌糸中のポリリン酸を蛍光色素等で染色し、ポリリン酸が酸性小胞や管状液胞に局在するかどうかを検討する必要がある。 

具体的データ

図1.アーバスキュラー菌根菌 Gigaspora margarita 発芽菌糸 内の細胞内小器官

 

図2.アーバスキュラー菌根 菌の菌糸内構造の模式図

その他

  • 研究課題名:パイオニア植物におけるVA菌根菌の機能解明とその利用技術開発
  • 予算区分:新技術創出
  • 研究期間:1999~2003年度
  • 研究担当者:斎藤勝晴、久我(植竹)ゆかり、小島知子、斎藤雅典、大友 量、安藤象太郎
  • 発表論文等:1) Uetake et al. (2002) New Phytol. 154:761-768.
                      2) Saito et al. (2004) Plant Soil 261:231-237.