急傾斜草地の牧草生育速度と土壌流出量に与える家畜歩行の影響

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要約

家畜歩行により牧草生育速度は減少し、土壌流出量は増加する。高強度の家畜歩行では牧草生育速度は、家畜の歩行のない場合の約70%に減少し、降雨流出水中の土壌流出量は約5倍に増加する。

  • キーワード:永年草地、家畜歩行、牧草生育、土壌流出、傾斜地
  • 担当:畜産草地研・山地畜産研究部・草地土壌研究室
  • 連絡先:電話0267-32-0761、電子メールosayama@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

傾斜草地では放牧家畜が頻繁に歩行し過放牧となった場所では、多量の降水時に草地からの土壌粒子の流出や、洪水発生の危険がある。このため山地傾斜地を放牧草地として利用する場合には、家畜歩行と牧草生育や土壌流出との関係を解明し、環境保全的な草地管理を検討することが必要である。そこで、傾斜地において家畜の歩行強度を低強度と高強度にかえて歩行させることにより、牧草生育と土壌流出の変化を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 対象とした放牧草地は、火山山麓地に位置し黒ボク土壌からなり、オーチャードグラスとケンタッキーブルーグラスが優占する。家畜歩行は、頻繁な歩行について平均体重290kg~300kgの黒毛和種育成牛を人が追って速歩させることにより、低強度と、その2倍の強度で歩行させた高強度の歩行を設定した(表1)。試験地には、傾斜度が約9度の傾斜地と、約23度の急傾斜地を選定した。
  • 家畜歩行のない場合に、傾斜地と急傾斜地の2つの傾斜地とも年平均の牧草生育速度は47 kg DM ha-1 day-1であり、低強度歩行では両傾斜地とも牧草生育はその90% 以上を維持する(表2)。しかし、高強度歩行では牧草生育はその約70% に減少する。
  • 牧草の分げつ数は、傾斜地と急傾斜地ともに家畜歩行の無し区、低強度歩行区、高強度歩行区の順に減少している(図1)。歩行による牧草生育の減少は、牧草の分げつが進まないことも原因と考えられる。
  • 急傾斜地における降雨流出水中の土壌流出は、斜面長20mでは、家畜歩行無し区の土壌流出量(57 kg DW ha-1 )とくらべると高強度区の土壌流出量はその約5倍、低強度区では約2倍、地表裸地区で約4倍である(図2)。高強度歩行区での大きな土壌流出量は、牧草被覆の低下と表層土壌の崩壊などによると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 放牧牛の移動通路としても使われているような頻繁に牛が通行する傾斜草地の保全のための資料となる。
  • 土壌については、透水性、圧縮性などの水文・強度特性が異なる場合には別途検討が必要である。強度の家畜歩行により形成された裸地に対しては丸太材をもちいる修復(畜産草地研究成果情報http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nilgs/2002/nilgs02-04.html)を進めることができる。

具体的データ

表1 歩行試験の概要

 

表2 傾斜地と急傾斜地における家畜歩行後の牧草生育速度 kg DM ha-1 day-1

 

図1 傾斜地( a ) と急傾斜地( b ) における歩行処理ごとの分げつ密度 2003 年。

 

図2 急傾斜地における歩行処理後 の降雨流出水に伴う土壌流出 量

その他

  • 研究課題名:山地放牧草地における土砂と養分の流出からみた環境安定解析、傾斜放牧草地における流域水文の解明
  • 予算区分:外国人特別、交付金
  • 研究期間:2003~2004年度、2001~2003年度
  • 研究担当者:パンデ タラ、山本 博