堆肥化過程で発生する高濃度アンモニアを効率的に回収するスクラバ

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要約

堆肥化過程で発生する高温・高湿ガス中の高濃度アンモニアを回収する装置。アンモニアと酸性溶液との中和反応により、アンモニアの97∼99%をリン安または硫安溶液として回収できる。当該装置のランニングコストは、生ふん1tあたり579∼3,851円である。

  • キーワード:畜産産環境、家畜ふん尿、スクラバ、堆肥化、アンモニア、脱臭
  • 担当:畜産草地研・畜産環境部・施設工学研究室
  • 連絡先:電話0287-37-7814、電子メールabey@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地、共通基盤・作業技術
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

吸引通気式や密閉型施設での堆肥化処理は、処理対象の発酵排気量が少ない利点がある。しかし、排気が高温・高湿でアンモニア濃度が 高いため、既存の脱臭法では対応が困難なケースも見られる。一方、アンモニアは化学肥料の窒素源であり、アンモニアを堆肥化過程で回収・資源化すること は、処理コストの低減化や循環型農業の観点から好ましい。
そこで、アンモニアは酸との中和反応により、リン安、または硫安として効率的に回収できることに着目し、家畜ふん尿の堆肥化処理に適応できる安価なスクラバを開発する。

成果の内容・特徴

  • 開発したスクラバは、1)送風機、2)塩ビ製配管材で構成した薬液散布部、3)薬液循環ポンプ、4)断熱された有効容量約500Lのポリエチレン製薬液槽、5)制御・電装系等からなり、市販の物置に収納できる小型で簡易な構造である。
  • 発酵排気中のアンモニアは、薬液散布部で薬液と中和反応して回収され、残りの空気は、薬液槽出口のデミスタでミスト 除去された後に次工程へ送られる。薬液は発酵排気からの熱伝達、またはヒータの加温により40∼60℃を維持するため、リン安、または硫安の再結晶を防止 できる。また、水位センサとヒータにより薬液の水位が制御されるため、発酵排気の結露による薬液のオーバーフローを防止できる(図1)。
  • 実験室内、および搾乳牛30頭規模の吸引通気式堆肥化施設において、リン酸または硫酸によるアンモニア回収試験を行ったところ、破過期以外のアンモニア回収率は97∼99%となる(図2、図3)。破過に達した薬液は、pHが5.8、NH3/H3PO4のモル比が1.7であり、(NH4)2HPO4(リン安)の製造工程とほぼ同じ反応産物である。なお、いずれの薬液も質量比で30%にまで希釈すれば、薬液の温度が室温まで下がっても再結晶はしない。
  • 回収したリン安を所定の濃度に希釈して各種野菜11種の発芽試験に供したが、発芽障害は生じない。
  • アンモニア回収に要する薬液量や消費電力を既存の堆肥化試験データをもとに試算すると、畜種や薬液により異なるものの、生ふん1tあたり579∼3,851円となる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 吸引通気式堆肥化施設や密閉縦型堆肥化装置など、堆肥化過程でアンモニアが高濃度に発生する際に、悪臭の1次処理として活用できる。18年度に販売される予定である。
  • 有効容量約500Lの当該スクラバは、搾乳牛の生ふんで20t分(50頭で約1週間分)のアンモニアを回収する毎に薬液を交換する必要があるが、薬液槽の容量増加や薬液の自動交換機能の付加により延長は可能である。
  • 薬液の使用条件や回収後薬液の外部流通については、毒物及び劇物取締法や消防法、労働安全衛生法、肥料取締法などによる届出、薬液の管理・保管が必要になる。

具体的データ

図1 開発したアンモニア回収用スクラバ

 

図2 実験室内でのアンモニア回収性能試験結果(ボンベからアンモニアを発生)

 

図3 吸引通気式堆肥化施設でのスクラバ(リン酸)によるアンモニア回収試験結果

 

表1 スクラバによるアンモニア回収でのランニングコスト試算例

 

その他

  • 研究課題名:吸引通気式堆肥発酵処理技術の実証
  • 12-08-01-02-16-05
  • 予算区分:バイオリサイクル
  • 研究期間:2002∼2006年度
  • 研究担当者:阿部佳之、福重直輝(東北農研)、伊藤信雄(東北農研)、江波戸宗大、本田善文