乳牛の脂肪及び乳腺組織におけるグルコース輸送担体遺伝子の発現の変化

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要約

泌乳期の脂肪組織ではグルコース輸送担体1(GLUT1)のタンパク質及びmRNAが乾乳期に比べてほとんど発現が見られない一 方、乳腺組織では泌乳期に高いレベルで発現している。また、脂肪組織におけるインスリン感受性のGLUT4は泌乳期、乾乳期で発現は変わらない。

  • キーワード:家畜生理、ウシ、泌乳、脂肪組織、乳腺組織、GLUT
  • 担当:畜産草地研・家畜生理栄養部・代謝内分泌研究室
  • 連絡先:電話029-838-8645、電子メールkoma2@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

泌乳牛では乳糖の元になるグルコースを乳腺組織へより多く供給するために生体内で様々な変化が起こるとされるが、脂肪や乳腺組織で 具体的にどのような変化が起きているかは不明の点が多い。本研究の目的は細胞内に存在するグルコースを取り込む担体(GLUT)に着目して、乳期の変化に 伴う発現の有無を明らかにすることにある。ここではインスリンに依存しないGLUT1とインスリンに依存して作用するGLUT4について調べた。

成果の内容・特徴

  • ウェスタンブロット法による脂肪組織中のGLUT1タンパク質発現量は泌乳最盛期(分娩後8-11週)では発現がほとんど見られないのに対し、泌乳後期(分娩後40-50週)及び乾乳期では同程度の発現が確認できる(図1(a))。また、リアルタイムPCR法によるmRNA発現量解析でも泌乳最盛期と比較して泌乳後期及び乾乳期で有意に高いレベルにある(図1(b))。
  • 乳腺組織中のGLUT1タンパク質発現量は脂肪組織とは逆に泌乳最盛期と泌乳後期で高い値を示し、乾乳牛で減少している(図2(a))。同様にmRNAの発現量も乾乳期に比べて泌乳最盛期と泌乳後期で高い値である(図2(b))。
  • インスリン依存性のGLUT4の発現量は各期で有意な差は見られないが(図3)、血中のインスリン濃度は泌乳最盛期と泌乳後期に比べ乾乳期で高くなる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 泌乳期のグルコースの取込はGLUT1ではその発現量によって調節され、GLUT4では発現ではなく活性化によって調節されていると考えられる。
  • 泌乳最盛期において脂肪組織中のGLUT1発現がほとんど見られないのはグルコースを乳腺組織に積極的に供給するための節約機構がはたらいているためであり、泌乳期における栄養素分配機構の解明に役立つ情報となる。
  • 泌乳最盛期と泌乳後期の乳腺組織においてGLUT1の発現に違いが見られなかったのは乳腺の機能が比較的長期間にわたって維持されていることを示し、長期間持続型の泌乳に対して役立つ情報となり得る。

具体的データ

図1 脂肪組織中のGLUT発現

 

図2 乳腺組織中のGLUT発現

 

図3 脂肪組織中のGLUT発現

 

図4 血中のインスリン濃度

 

その他

  • 研究課題名:ソマトトロピン軸の変動に伴うGLUT、ホルモンレセプター等泌乳制御物質の組織における発現量の解析
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001∼2005年度
  • 研究担当者:小松篤司、櫛引史郎、伊藤文彰
  • 発表論文等:Komatsu et al. (2005) Journal of Animal Science 83:557-64.