高塩類堆肥の連用が土壌中のイオンバランスにおよぼす影響
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要約
高塩類堆肥を連用すると土壌溶液中のNa+、K+濃度が増加する。ARK+Naでイオンバランスを評価すると12mS/cm程度の高塩類堆肥では2t/10aの連用でもイオンバランスは大きく崩れる。コマツナは正常に生育するが、Na、K、Mg含量が高くなる傾向にある。
- キーワード:高塩類堆肥、コマツナ、土壌、イオンバランス、ARK+Na、土壌肥料
- 担当:畜産草地研・飼料生産管理部・作物栄養研究室、上席研究官
- 連絡先:電話0287-37-7559、電子メールevamune@affrc.go.jp
- 区分:畜産草地
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
良質堆肥のEC(電気伝導率)値の目安は5mS/cm以下とされるが、畜産環境技術研究所の調査によれば牛ふん堆肥の43%はこの
目安を越えており、耕種農家は5mS/cmを超える高塩類堆肥の利用を避ける傾向にある。塩類濃度の低い堆肥を生産するのが望ましいが、家畜排泄物処理法
により今後も高塩類堆肥は生産され続けると想定されるため、耕種農家による高塩類堆肥の利用を敢えて検討しなければならない。温室でコマツナやミニトマト
を栽培し、高塩類堆肥を連用した場合に作物や土壌におよぼす影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 温室で1/1000aポットに化成区(N-P2O5-K2O
20-15-15kg/10a)、普通堆肥(牛ふん堆肥, EC値1.81mS/cm,
N-P2O5-K2O-Na2O-CaO-MgO 13.2-138-20-0.1-78-8.3g/kgDM)2t/10a、高塩類堆肥(牛ふん堆肥,
EC値12.4mS/cm, N-P2O5-K2O-Na2O-CaO-MgO
22.6-106-70-7.9-51-8.1g/kgDM)2t、4t、8t/10a相当混入した区を設けて化成肥料または堆肥を連用し、コマツナを3回連作した。
- 高塩類堆肥を連用するに伴い、土壌溶液中のイオン濃度が上昇する。K+濃度の増加が著しく、高塩類堆肥施用量に比例して土壌溶液中の濃度が高くなる(図1)。しかし、すべてのイオン濃度が増加しているため、イオンバランスが適正か分かりにくい。
- コマツナ栽培期間中の土壌のイオンバランスの変化を定量化するために陽イオンポテンシャル評価に用いられているARK(ARK
=-log10(K/(Ca+Mg)1/2))を改良し、1価と2価の陽イオンバランスを評価できるARK+Na(ARK+Na=-log10((K+Na)/(Ca+Mg)1/2))を考案した(図2)。ARK+Na値が小さいほどK+やNa+が土壌表面から溶脱しやすいことを表す。
- ARK+Naは化成区と普通堆肥区では同様に変化し、高塩類堆肥区では施用量が増加するにつれて値が小さくなる(図2)。高塩類堆肥区(2t/10a)では1作目は化成区や普通堆肥区に近い値を示すが、連用2回目になると急激に値が小さくなる。2t/10a程度の連用でも土壌には大きな影響がある。
- 高塩類堆肥の連用でもコマツナは正常に生育するが、高塩類堆肥区のコマツナ中の無機成分は化成区よりもNa、K、Mg含量が高くなる傾向にある(表1)。しかし、温室でのミニトマト栽培では、高塩類堆肥施用によって尻腐果が発生することもある(表2)。これは1価と2価の陽イオンについてバランスが崩たことよるCa供給不足が原因と考えられ、高塩類堆肥施用にはイオンバランスについても検討する必要がある。
成果の活用面・留意点
- 温室で高塩類堆肥を連用する場合の目安となる。
- ミニトマト等3種の野菜栽培における土壌溶液の推移はコマツナと同様である。
- 堆肥のECや成分量により土壌溶液のイオンバランスへの影響が異なる可能性がある。
具体的データ




その他
- 研究課題名:塩類が濃縮された堆肥の作物栽培利用条件の解明
- 予算区分:バイオリサイクル
- 研究期間:2002∼2006年度
- 研究担当者:江波戸宗大、畠中哲哉、須永義人、川地太兵