傾斜放牧草地の谷部を無施肥管理すると土壌水中の硝酸態窒素は低減する

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要約

傾斜草地からなる集水流域の谷部草地を無施肥管理すると、通過する土壌水中の硝酸態窒素濃度を環境基準値10 mgN/L以下に低減できる。その無施肥草地の谷に沿う距離あたりの土壌水中硝酸態窒素濃度の低減率は0.15∼0.32%/m である。

  • キーワード:永年草地、放牧、硝酸態窒素、施肥管理、傾斜地
  • 担当:畜産草地研・山地畜産研究部・草地土壌研究室
  • 連絡先:電話0267-32-2356、電子メールosayama@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

傾斜草地には、継続した利用の結果、土壌中に養分が蓄積されるとともに、下流への環境負荷が生じるようになった草地がある。こうし た草地を環境保全的に管理し、下流域を窒素汚染から守るためには、草地の施肥管理の検討が必要である。そこで、草地を無施肥で管理した場合に生じる土壌水 中の硝酸態窒素濃度の変化を明らかにし、汚濁負荷が低減する可能性を草地小流域において明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 試験流域は長野県東部火山山麓に位置し、土壌は腐植質黒ボク土で構成され、連続した谷の凹地形と尾根の凸地形とからなる(図1、表1)。この中の草地では黒毛和種の肉用牛が放牧利用され、草地中の谷の下流側とその近傍4.1 haを1998年より無施肥管理した。さらにその下流に林地があり、A地点で湧水が発生する。谷における土壌水の測定・採取はテンショメーターとポーラスカップ法で行った(表1)。草地の年間施肥量は、N-P2O5-K2O-MgO=97-66-36-33 kg/haである。
  • 土壌水分の全ポテンシャルØの年平均値は谷の上流から下流に大きくなり、また深度方向に小さくなる(図2)。 谷に周囲から雨水が集まるとともに、深度方向に下方への浸透を示す。また強雨時(30mm/h以上)に谷では、地表流出が発生し無施肥草地付近に達してそ の後浸透する。こうした土壌水の谷部への集中と土壌中での通過とともに、土壌水中の硝酸態窒素濃度は谷に沿って下流方向に無施肥草地0m地点の 21.0mgN/Lから、176 m 地点の9.3 mgN/Lに低減し、環境基準値以下となる(図3上)。
  • 無施肥草地での牧草は、無施肥草地のはじまりから下流方向に数十mの区間では施肥草地と同等の生産量を示すが、より下流では低下する。また下流ほど土壌水のpHが上昇する(図3下)。これらから窒素濃度の低減は、草地内の23%を占める無施肥草地内の牧草による吸収と、土壌中の脱窒効果によると考えられる。
  • 無施肥草地における硝酸態窒素濃度の谷に沿う距離あたりの低減率( [-{(y2-y1)/y1}×100/(x2-x1)] 、ここに流入地点x1の濃度y1、流下地点x2の濃度y2)は、0.15%/m (2003年)、0.32%/m (2004年)、0.26%/m (2005年)である。この濃度低減率は、欧州での河畔草地の低減率:数∼15%と比べ、本草地での低減割合はかなり小さい。これは草地谷部の土壌水は河 畔湿地と比べ、毛管ポテンシャルの平均が-180cm H2Oと乾燥していることなどによると考えられる。
  • 硝酸態窒素濃度は草地から下流の林地内でさらに低下し、草地・林地をふくめた低減変化は指数回帰式で近似される。

成果の活用面・留意点

  • 傾斜草地において、草地から流出する窒素を低減させるための草地管理に役立てることができる。
  • 地表流出水の濃度も下流方向に低減し、定常的な水流はないが谷の地形により地中水が集中する流域の草地における無施肥管理の効果に同様な傾向が推定される。

具体的データ

図1試験流域の土地利用・測点

 

表1 流域の土地利用の概要と測定方法

 

2 谷に沿う土壌水全ポテンシャルの変化

 

図3谷に沿う土壌水中硝酸態素濃度(2004年)(上)    と土壌水pHの変化(2003~2005年)(下)

 

その他

  • 研究課題名:草地小流域における窒素循環流出量の解明と負荷低減の検討
  • 課題ID:12-07-02-*-12-05
  • 予算区分:交付金プロ(自然循環)
  • 研究期間:2003~2005年度
  • 研究担当者:山本博