AtNAR2.1の105番目のアミノ酸はシロイヌナズナの硝酸吸収能に関与する

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要約

シロイヌナズナの突然変異誘起処理によりAtNAR2.1(AtNRT3.1)遺伝子に対して1塩基置換が生じた突然変異体は硝酸塩をほとんど吸収することができない。AtNAR2.1タンパク質の105番目のアミノ酸であるアスパラギン酸が硝酸塩の吸収に重要である。

  • キーワード:AtNAR2.1、シロイヌナズナ、突然変異体、硝酸吸収、土壌肥料、飼料作物栽培・調製・評価
  • 担当:畜産草地研・飼料作生産性向上研究チーム、飼料作環境研究チーム
  • 連絡先:電話0287-37-7559、電子メールwww-nilgs@naro.affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

高濃度に硝酸塩を蓄積した飼料作物は、反すう家畜にとって硝酸塩中毒の原因となる。このため、硝酸塩蓄積の遺伝的変異を利用した硝酸塩濃度の低減技術、なかでも硝酸塩を蓄積しにくい品種の開発が課題となっている。本研究では、モデル植物を用いて硝酸塩蓄積に重要な遺伝子を明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • メタンスルホン酸エチル(EMS)処理によって突然変異を誘起されたシロイヌナズナM3種子2,232系統の中から、野生株(EMS未処理)の13%しか硝酸塩を蓄積しない突然変異体rnc1を発見した(図1)。
  • rnc115Nラベルされた硝酸塩を野生株の12%しか取り込んでいないことから、根における硝酸塩の吸収が抑制されている(図2)。
  • 突然変異は1個の劣性遺伝子の変異に起因し、原因遺伝子は硝酸トランスポーターの活性化に必要なAtNAR2.1(AtNRT3.1)遺伝子である。突然変異体では転写開始部位から313番目のグアニンがアデニンに置換されている。その結果、105番目のアミノ酸であるアスパラギン酸がアスパラギンに置換される(表1)。
  • AtNAR2.1遺伝子の1塩基置換変異によって、根におけるAtNAR2.1遺伝子発現量は変わらないが、主要な硝酸トランスポーター遺伝子であるAtNRT1.1AtNRT2.1遺伝子発現量は低下する(図3)。
  • シロイヌナズナAtNAR2.1タンパク質は硝酸塩の吸収に関係し、105番目の アスパラギン酸がその機能制御に重要である。

成果の活用面・留意点

  • 硝酸塩の吸収機構解明および硝酸塩を蓄積しにくい飼料作物の育種のための基礎的知見となる。
  • NAR2遺伝子は複数存在することが予想されるため、作物開発に応用する時はその中で最も有効な遺伝子をあらかじめ同定する必要がある。
  • AtNAR2.1はAtNRT3.1と記載されている論文もあるので、検索する時は注意する必要がある。

具体的データ

図1 地上部硝酸塩濃度の比較図2 硝酸吸収速度の比較

表1 AtNAR2.1 の塩基配列およびアミノ酸の置換部位

図3 遺伝子発現量の比較

その他

  • 研究課題名:飼料生産性向上のための基盤技術の確立と土地資源活用技術の開発
  • 課題ID:212-e
  • 予算区分:交付金プロ(組換え植物)、基盤
  • 研究期間:2000~2006年度
  • 研究担当者:川地太兵、原田久富美、須永義人、畠中哲哉、江波戸宗大
  • 発表論文等:Kawachi et al. (2006) Plant Cell Physiol. 47(10):1437-1441