イタリアンライグラスのエンドファイト、Neotyphodium occultansを特異的に検出できるPCRプライマー

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要約

イタリアンライグラスのエンドファイト(共生糸状菌)、Neotyphodium occultansのリボゾームRNA遺伝子の配列を近縁菌等と比較し、感染植物の全DNAから本菌の遺伝子を特異的に検出するためのPCRプライマーを設計した。

  • キーワード:イタリアンライグラス、エンドファイト、植物病害、PCRプライマー、飼料作物栽培・調製・評価
  • 担当:畜草研・飼料作環境研究チーム、畜産温暖化研究チーム
  • 連絡先:電話0287-37-7556、電子メールwww-nilgs@naro.affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

イネ科草本植物の共生糸状菌(エンドファイト)は種子伝染で維持され、宿主植物の生育を促進するが、家畜毒性物質を生産する場合もあり、家畜中毒の要因として、また、牧草の栽培・育種に活用できる遺伝資源として、その分布や特性の把握が求められている。イタリアンライグラスで発見された共生糸状菌、Neotyphodium occultansは、近年国内でも感染植物の広範な野生化が確認され、感染植物の耐虫性等が向上するほか、本菌による家畜中毒の報告例が無いことから、牧草栽培への活用に関心が寄せられている。しかし近縁草種のペレニアルライグラスに共生するN. lolii が家畜中毒要因として問題になっており、両草種は種子や幼苗の時期には識別が困難、また、菌の形態も類似することから、牧草・芝草等としての安全な利用のためには菌の客観的な検出・識別法が求められる。

成果の内容・特徴

  • 日本国内各地で採集したN. occultans感染ライグラスを用いてエンドファイトのリボゾームRNA遺伝子(rDNA)を解析し、GenBank登録の本菌種および各種類縁菌等のrDNA配列との比較により、N. occultansを特異的に検出できるPCRプライマー、Noc1(5′-TCACTCCCAAACCCCTGTGGACTTAT-3′)およびNoc2(5′-CGCGACGAGACCGCCAA-3′)を設計した(図1)。
  • Noc1およびNoc2を用い、ライグラス種子から抽出した全DNAを鋳型としたPCRを行うと、N. occultans感染植物種子では菌のゲノムに由来する増幅産物(約420bp)が認められるが、非感染のイタリアンライグラス、およびN. loliiに感染したペレニアルライグラス等では認められない(図2)。
  • N. occultansは人工培養法が確立されていないため、本菌の分離、およびそのゲノムDNAの純粋な調整はできないが、本プライマーを使用することにより感染植物から直接本菌を検出できるほか、N. lolii等の他の近縁菌種とも識別できる。

成果の活用面・留意点

  • N. occultansの検出のほか、感染植物における本菌の局在状況、動態等の追跡に活用出来る。
  • 感染植物組織中のエンドファイトの生体量が極めて微量であることに配慮し、供試DNAの抽出材料には種子、穂などエンドファイトの菌糸密度が高いと予想される部位を用いるほか、PCR反応系あたりの鋳型DNA量をできるだけ多くし、アニーリング温度を低めにする。
  • 検出感度はDNAサンプルの状態やPCR条件等の影響を受けるので、抽出材料への麦角病感染種子や腐敗した組織等の混入を避ける、実験には必ずポジティブコントロールとネガティブコントロールをもうけ、増幅産物のサイズ比較を詳細に行う、などの配慮が必要である。

具体的データ

図1.日本国内で採集されたN.occultans と、GenBank 登録の海外のNeotyphodium 属菌および類縁菌とのrDNA 配列の比較(Noc1・Noc2 関連部分の抜粋)

図2.Neotyphodium occultans のrDNA を特異的に検出するプライマー、Noc1 とNoc2 を使用したライグラス種子からのエンドファイトの検出

その他

  • 研究課題名:草地飼料作における減肥・減農薬の環境対策技術の検証と新たな要素技術の開発
  • 課題ID:214-r
  • 予算区分:基盤研究、科研費
  • 研究期間:2006年度
  • 研究担当者:菅原幸哉、大久保博人、山下雅幸(静岡大学)、月星隆雄
  • 発表論文等:Sugawara et al., (2006) Grassland Science 52(4):147-154.