牛ふんに存在する水素生産好熱細菌の分子生物学的解析
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要約
牛ふんには、水素生産好熱細菌であるClostridium thermocellumやCaldanaerobacter subterraneusなどに類似した細菌が存在しており、牛ふん尿スラリーの高温水素発酵に関与する。
- キーワード:水素生産細菌、菌叢解析、バイオマス利用、嫌気発酵、家畜排泄物、畜産環境
- 担当:畜産草地研・資源化システム研究チーム
- 連絡先:電話029-838-8676、電子メールwww-nilgs@naro.affrc.go.jp
- 区分:畜産草地
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
家畜排泄物にはセルロース分解細菌やメタン菌、水素生産細菌など有用な微生物群が含まれているが、それらの分子生物学的な解析は十分なされていない。牛ふん尿スラリーを種菌の添加なしに60℃または75℃で嫌気発酵させるだけで、スラリーに内在する水素生産細菌群を活用して水素を生産できる(水素発酵)。そこで牛ふんスラリーの水素回収法のメカニズム解明を目的として、分子生物学的な菌叢解析法Denaturing Gradient Gel Electrophoresis(DGGE)により水素発酵に関与する細菌種を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 畜産草地研究所で飼育されている乳牛10-20頭分のふん尿スラリーの一部を60℃と75℃で水素発酵させたサンプルと、比較対象として培養前のスラリーから細菌群のゲノムDNAを調整した。それらのゲノムDNAから16S rRNA遺伝子のV3領域をGC-357Fと517RプライマーでPCR増幅させてDGGE解析した。図1に示すように、培養後特異的バンドが出現し、それらバンドの塩基配列を決定した(B1-4, C1)。得られた配列とデータベースに登録されている塩基配列との類似性を検索した結果を表1に示す。
- スラリーの60℃発酵では、Clostridium stercorariumとClostridium thermocellumに類似した細菌(バンドB3, B4)が培養後に出現している。C. stercorariumとC. thermocellumは、共に55-60℃程度の温度で増殖して水素を生産する嫌気性中度好熱細菌(至適増殖温度50-60℃)である。スラリーの60℃発酵では、C. stercorariumとC. thermocellumに類似した細菌種が関与している可能性が推測される。バンドB1-2に対する90%以上の相同性を示す既知の細菌種はデータベースに登録されておらず、分子生物学的な解析ではない手法による解析が必要である。
- スラリーの75℃発酵では、Caldanaerobacter subterraneusに類似する細菌(バンドC1)が培養後に出現している。C. subterraneusは、海底の熱水噴出口や油田、温泉源などの高度高温環境(70℃以上)に生育する水素を生産する嫌気性高度好熱細菌であることから、C. subterraneusに類似した細菌種がスラリーの75℃発酵に関与する可能性が推測される。この結果は、水素を生産する嫌気性高度好熱細菌(至適増殖温度70℃以上)に類似した細菌種が牛ふんに含まれていることを示す新しい知見である。
成果の活用面・留意点
- 牛ふん尿スラリーの水素回収技術確立のための基礎試料となる。
- 牛ふんには多様な水素生産細菌が含まれているので水素発酵の種菌として利用できる。
- 牛ふんには高度好熱嫌気性細菌のような極限環境細菌も含まれており、牛ふんは新規微生物の探索などの種汚泥に活用できる。
具体的データ


その他
- 研究課題名:家畜排せつ物の効率的処理・活用のための飼養管理システム及び資源化促進技術の総合的検証と新たな要素技術の開発
- 課題ID:214-t
- 予算区分:科研費
- 研究期間:2005~2006年度
- 研究担当者:横山浩、田中康男、和木美代子、荻野暁史、安田知子
- 発表論文等:Yokoyama et. al. (2007) Appl. Microbiol. Biotechnol., 74(2): 474-483.