花粉の飛散が少ないイタリアンライグラス新品種「MSIA1」

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要約

イタリアンライグラス「MSIA1」は、花粉を飛散させない(雄性不稔)個体の割合が約90%と高く、花粉症のアレルゲンになりにくい。また、組換え体の実用的利用を目指した、花粉飛散による組換え遺伝子の拡散リスクの評価研究に活用出来る。

  • キーワード:イタリアンライグラス、花粉、雄性不稔、維持系統、組換え体、飼料作物育種
  • 担当:畜産草地研・飼料作物育種研究チーム、飼料作物育種工学研究チーム
  • 連絡先:電話0287-37-7550、電子メールwww-nilgs@naro.affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

近年、花粉症が社会問題になっているが、その原因の一つとして花粉飛散量の多いイネ科牧草がある。花粉を飛散させない(雄性不稔)植物は、花粉症のアレルゲンとならない他、組換え体の実用的利用においては、花粉の飛散による組換え遺伝子の拡散を抑制することが出来る。そこで、花粉症のアレルゲンとならないイタリアンライグラスの作出およびイタリアンライグラスにおける遺伝子が拡散しない組換え体の栽培利用を可能にすることを目指し、雄性不稔イタリアンライグラス系統の育成を行った。

成果の内容・特徴

  • イタリアンライグラス「ワセアオバ」から見いだされた雄性不稔細胞質を持つ個体は、細胞質の遺伝子型と核の遺伝子型との相互作用により、雄性不稔(以下、不稔)を引き起こす。しかし、イタリアンライグラスには、花粉の稔性を回復させる核の遺伝子が高い頻度で含まれるため、雄性不稔個体と任意のイタリアンライグラスとの交配後代には、稔性が回復し花粉を飛散させる(以下、可稔)個体が高い頻度で出現する。
  • これに対し、「ワセユタカ」由来の2個体(MT1およびMT2)は、雄性不稔個体との交配後代で、稔性が回復しない不稔個体の割合が高かった。この2個体の交配後代より、さらに図1に示すように、後代における不稔個体の割合が高くなる(雄性不稔維持能が高い)個体を選抜し、雄性不稔維持系統として「MSIB1」を育成した。
  • 雄性不稔細胞質を持つ個体群(MS1×MT-P1-10)に、「MSIB1」を連続戻し交雑し、戻し交雑5世代目(BC5)を「MSIA1」とした。
  • 「MSIA1」は、畜産草地研究所(那須)の圃場で栽培すると、約90%の個体が花粉を飛散させない(表1)。
  • 「MSIA1」および「MSIB1」の主要形質は、「ニオウダチ」および「ワセユタカ」と比較して稈長が短い、出穂期がやや遅いなどの特性があるが、ほぼ市販イタリアンライグラス品種の変異の範囲内である。

成果の活用面・留意点

  • ライグラス類において、花粉飛散による組換え遺伝子拡散リスクの評価研究に有効に活用されている。
  • 花粉を飛散させない個体の割合は、温度や湿度などの環境条件により変動する。

具体的データ

図1.「MSIA1」および「MSIB1」の育成経過

表1.MSIA1、MSIB1 およびイタリアンライグラス4品種の花粉稔性

表2.MSIA1 およびMSIB1 の主要特性

その他

  • 研究課題名:飼料作物の育種素材開発のためのDNAマーカー利用技術と遺伝子組換え技術の開発
  • 課題ID:221-l
  • 予算区分:安全性確保、基盤研究費
  • 研究期間:1994~2005年度
  • 研究担当者:荒川明、藤森雅博、杉田紳一、小松敏憲、内山和宏、水野和彦
  • 発表論文等:荒川ら(2006)イタリアンライグラス「MSIA1」および「MSIB1」の品種登録