レッドリストの分析による保全すべき草地性チョウ類の評価
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要約
チョウの都道府県別レッドリストと生態情報を用いた重回帰分析では,分布面積が狭く単食性である草地性のチョウは絶滅のリスクが高く、チョウの保全を考える場合考慮すべき種である
- キーワード:野生動物、野草、レッドリスト、チョウ類、絶滅リスク、保全、重回帰分析、草地生態・管理
- 担当:畜産草地研・草地多面的機能研究チーム
- 連絡先:電話0287-37-7228、電子メールwww-nilgs@naro.affrc.go.jp
- 区分:畜産草地
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
草地は家畜を生産するだけでなく有用な多面的機能の一つとして多様な野生生物を保全する機能を持っている。しかし,近年草地の減少や荒廃に伴って草地に依存した野生生物が減少し草地の生物多様性の保全機能が失われ,これらの野生生物の保全への取組みが緊急の課題となっている。チョウの都道府県別レッドリスト(巣瀬・枝、2003)と生態情報を分析して、保全上重要な草地性のチョウとその生態的特性を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 都道府県のレッドリスト種として挙げられたチョウは151種で,日本産チョウ類231種(環動昆(1998)に基づく)の内65.4%のチョウがいずれかの都道府県で絶滅の恐れがある種として記載されている。
- チョウを生息場所により草地性と森林性の種に分けると、レッドリスト種は非レッドリスト種に比べて,草地性の種においても森林性の種においても,年間平均世代数(表1脚注参照)が有意に少ない(図1)。
- レッドリストのカテゴリーにスコアを与えて分布面積で重み付けた絶滅のリスクを表す指数(ERI)(式1)でチョウのレッドリスト種を評価した場合,絶滅リスクの高いチョウの大多数は草地性の種である(表1)。
ERI=(絶滅(EX+EW)県の面積×5+絶滅危惧I類(EN)の県面積×4+絶滅危惧II類
(VU)の県面積×3+準絶滅危惧(NT)の県面積×2+情報不足(DD)の県面積×
1)÷分布県面積 --------------------------------------- (式1)
- 絶滅のリスク指数(ERI)とチョウの生態的特性(表1)の関係を一般化線形モデルによる重回帰分析で解析すると,分布面積が狭く単食性である草地性のチョウの種は他の種より絶滅のリスクが高く、チョウの保全を考える場合考慮すべき種である(表2)。この中でオオウラギンヒョウモンは分布面積については例外である(表1)。
成果の活用面・留意点
- 得られた結果は草地性のチョウだけでなく森林性のチョウの保全・再生目標にすることが出来る。
- 絶滅リスク指数(ERI)は、対象とする草地の生物リストと組み合わせてその草地自身の保全価値を定量的に評価することにも活用でき、多面的機能に基づく直接支払制度などの農業支持政策の誘導に結びつけることが出来る。
- レッドリストは一定期間ごとに見直されるので、新たなレッドリストが公表された時は、再評価する必要がある。分布面積などのチョウの生態的特性についてもより詳細また新たなデータが得られれば、式1や予測モデルは改善することが出来る。
具体的データ



その他
- 研究課題名:草地生態系の持つ多面的機能の解明
- 課題ID:421-b
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2006~2007年度
- 研究担当者:井村 治