小規模移動放牧導入の経済性

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要約

小規模移動放牧の実施は多くの放牧管理作業を伴うが、肉用牛繁殖経営では飼料生産や給餌、排せつ物管理作業の減少により農作業の省力化が図れる。農地の放牧利用は、資材・労力とも低投入であり、土地純収益は北関東中間地域農村の稲作水準に近い。

  • キーワード:肉用牛、放牧、省力化、低投入、土地純収益
  • 担当:中央農研・関東飼料イネ研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-8856、電子メールmsenda@affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

水田農業の再編、農地の有効利用、家畜飼養の省力化と飼料自給率向上をはかるため、農地の放牧利用が期待されている。そこで、北関東の小区画圃場の多い水田地帯において、転作田等を利用して小規模移動放牧に取り組む営農事例を対象に、農作業日誌、飼料生産作業等のタイムスタディ、営農簿記をもとに、放牧管理作業、放牧導入による繁殖経営の省力化効果、農地の放牧利用の経済性等を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 分析事例は、北関東で繁殖牛約17頭の飼養による子牛生産と140aの稲作を営む複合経営である。3年前から飼料畑や耕作放棄地、水田の放牧に着手し、現在2団地、10牧区、計232aの放牧地に4月から12月までのべ1,631頭の妊娠牛の移動放牧を行う。
  • 放牧導入により飼料生産作業は247時間減少するが、放牧管理に215時間を要するため、戸外作業時間の減少はわずかである。しかし、繁殖牛の舎飼飼養が減少するため、飼料の調理給与及び排せつ物管理作業はあわせて413時間減少する。この結果、畜産部門の農作業は2,960時間(1頭あたり177時間)から2,516時間(同150時間)に15%減少する(図1)。月別に見ると、飼料生産など家畜管理作業の多い5月から12月の作業時間の減少が顕著であり、月別労働時間の平準化が図られる(図2)。
  • 放牧導入により牧柵資材の経費負担が生じるが、採草に伴う資材・燃料の節減、敷料や飼料購入量の減少により、繁殖牛1頭あたり約22千円の経費(労働費を除く)が節減される(表1)。
  • 牧草サイレージ生産、放牧利用の10aあたり産出額は、稲作の約116千円と比べてそれぞれ約34千円、24千円と低い。しかし、投入費用は稲作の約101千円に対してそれぞれ約30千円、約12千円と低い。この結果、産出額から投入費用を差し引いた土地純収益は、牧草サイレージ生産は稲作を大きく下回り、転作助成がなければ水田への導入は困難である。しかし、放牧利用の土地純収益は、稲作に近く、放牧用地の集積や捕獲移動技術の開発など放牧管理の省力化を図ることにより、転作助成なしでも稲作から転換する可能性がある(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 地域水田農業ビジョンに放牧を積極的に位置づけるなど水田農業再編の有効な手段として活用できる。
  • 北関東で1筆10~20aの小区画分散圃場を対象に、稲作や飼料生産、放牧を行う事例に基づく結果である。

具体的データ

図1 放牧導入による農作業の変化図2 放牧導入による農作業時間の変化

表1 放牧導入による繁殖牛飼養経費等の変化表2 土地純収益の比較

その他

  • 研究課題名:放牧技術の普及に向けた家畜生産技術の高度化と多様な飼料資源を活用した放牧技術の開発
  • 課題ID:212-d
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2004~2008年度
  • 研究担当者:千田雅之、宮路広武(畜草研)
  • 発表論文等:千田(2007)「北関東水田地帯における肉用牛繁殖経営の粗飼料生産、
                      小規模移動放牧、及び収益性の実態」(中央農研研究資料)