急傾斜地を有する放牧地の無線草刈機による荒廃回避

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要約

放牧牛が採食できない雑草等が優占した急傾斜の放牧地において、無線草刈機は、100m程度離れた所からでも安全、快適、かつ高能率に遠隔作業ができ、年1~2回の作業の繰返しと放牧により、牧草の再生もみられ、荒廃を回避できる。

  • キーワード:放牧、作業、草刈機、急傾斜地、公共牧場、無線操作
  • 担当:畜産草地研・飼料作環境研究チーム、資源化システム研究チーム、放牧管理研究チーム、秋田県農林水産技術センター、家畜改良センター
  • 連絡先:電話029-838-8678
  • 区分:畜産草地、共通基盤・作業技術
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

急傾斜地を有する放牧地では、利用できる適切な機械がなく、放牧地で利用できる放牧地仕様の無線草刈機の開発(成果情報 2004)を行ってきた。この中で、ワラビ、アズマネザサ等の地下茎を有する難雑草や雑灌木種により荒廃した牧区を抱える公共牧場から、土木機械を用いた 高額な完全更新(56万円/ha)ではなく、放牧仕様の無線草刈機を用いた、草刈、施肥、播種等の管理作業で放牧を継続しながら雑草優占地から牧養力を有 する放牧地にするための機械化技術への要望が出された。しかしながら、緩傾斜地でも雑灌木が繁茂した荒廃条件での更新事例がないこと、除草剤を用いた全面 更新のように単年度で成果がみられないことから、複数年にわたる草刈を主体とした管理作業をこのような荒廃した牧区で実証試験を行い、その効果を明らかに することをねらいとする。

成果の内容・特徴

  • 機械は、堤防や河川敷等の草刈りのために市販されているフレール型の100m程度離れた所から無線操作できる草刈機がベース で、雑草等は粉砕する刈払機構である。エンジンと走行部を有する非乗用型の本機は、全長約4.4m、全幅約2.1m、全高約1.3mで機関出力 49kW(67PS)、質量2780kgであり、直径4cm程度の雑灌木なら粉砕できる(図1)。
  • 作業能率を調査した牧区(32.8a)や数回以上繰返し作業を行った実牧区(5.5ha)ともに作業能率は高く(約0.3ha/h)、作業能率、燃料消費量と燃料タンク容量から、4ha牧区を2日(14.3時間)、燃料の補給なしで利用できる。
  • 41%ワラビが優占した荒廃牧区(30%以上で完全更新:草地計画基準)で無線草刈機を用いた実証試験では、放任区では牧草は324から75g生草/m2とさらに荒廃が進行したのに対して、年1~2回(通算5回/3年間:春もしくは秋)の草刈りにより、牧草の生重割合が70%と放牧草地として利用可能な状態に回復できる(図2,表2)。
  • アズマネザサが優占した牧区(草丈33cm)で無線草刈機を用いた実証試験では、放任区では611から781gDM/m2の微増で新葉の利用ができないのに対して、年1回(通算2回/3年間)の草刈りにより、アズマネザサの乾物重が565から285gDM/m2へ減少し、新葉の採食利用が可能となり、アズマネザサも放牧利用できる (表2)。

成果の活用面・留意点

  • 無線草刈機を利用すると放牧を継続しながら雑草、雑灌木を含めて刈り払いできるため、完全更新に比べて、牧区の一部閉鎖等で 牧養力が低下することなく、安価に(15万円/ha:成果情報2006宮城県)荒廃回避でき、牧場の活性化が期待できる。市販の無線草刈機も3点ヒッチの 改造により利用できる。
  • 初めて刈取り作業を行う場合は、機械の損傷を避けるため露岩、障害物等の事前把握が必要である。また、無線草刈機は通年利用する必要がないことから共同で保有することが望ましい。

具体的データ

図1 無線草刈機による雑灌木の刈り払い

表1 無線草刈機の能率

図2 草刈り効果表2 草刈りの効果

その他

  • 研究課題名:草地飼料作における減肥・減農薬の環境対策技術の検証と新たな要素技術の開発
  • 課題ID:214-r
  • 予算区分:委託プロ(高度化事業)
  • 研究期間:2005~2007年度
  • 研究担当者:澤村篤、住田憲俊、井上秀彦、伊吹俊彦、山本嘉人、北川美弥、植村鉄矢(秋田県)、片平光彦(秋田県)、戸澤芳郎(家畜改良センター)
  • 発表論文等:澤村ら(2007)畜産草地研究所資料19(1):67-71