冠さび病抵抗性遺伝子をホモに持つイタリアンライグラス中間母本候補「Hm3Pc」

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要約

イタリアンライグラス「Hm3Pc」は、DNAマーカーを用いて特定された冠さび病抵抗性主働遺伝子LmPc3 をホモに持つ。冠さび病抵抗性が極強であり、遺伝子頻度が100%であるため、交雑次代が全て抵抗性になり、抵抗性を付与する効果が高い。

  • キーワード:イタリアンライグラス、冠さび病、抵抗性、DNAマーカー、飼料作物育種
  • 担当:畜産草地研・飼料作物育種工学研究チーム
  • 連絡先:電話0287-37-7550
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

ライグラス類冠さび病(以下、冠さび病)はライグラス類における重要病害の1つであり、収量、品質、環境耐性および家畜の嗜好性 を低下させる。冠さび病はヨーロッパなどではレースが存在することが明らかになっており、これまでにレースの報告がない我が国でも今後、レース(植物の遺 伝子型によって病原性が異なる菌系統)の分化が起こる可能性もある。これに対応するためには、複数の抵抗性遺伝子を持つ、高度安定抵抗性品種を育成する必 要がある。そのためには、DNAマーカーを用いて複数の冠さび病抵抗性遺伝子を同定し、それらをホモに持つ系統を育成することが有効と考えられる。

成果の内容・特徴

  • 「Hm3Pc」(イタリアンライグラス中間母本農2号)は、冠さび病抵抗性主働遺伝子LmPc3 をホモに持つイタリアンライグラス系統である。LmPc3 は、AFLPおよびSSRなどのDNAマーカーを用いた連鎖解析により、ライグラスの第7連鎖群(LG7)に位置づけられる(図1)。
  • 冠さび病抵抗性個体と感受性個体との間で7組み合わせの単交雑を行い、次代が抵抗性:感受性=1:1に分離する組み合わせの 1つ(「山育130号」×「ワセアオバ」)を、連鎖解析集団として選抜した。この集団に含まれる抵抗性の4個体間で交配を行い、次代について「ワセアオ バ」の感受性個体を検定親とした後代検定を行った。その結果、検定交雑次代が全て抵抗性となったためにLmPc3 をホモに持つと判断された3個体間で交配を行い、「Hm3Pc」が育成された(図2)。
  • 「Hm3Pc」は、冠さび病抵抗性が極強である。幼苗接種検定において、「ニオウダチ」および「はたあおば」は100%近い個体が感受性を示すが、「Hm3Pc」は100%の個体が抵抗性を示す(表1)。
  • 抵抗性主働遺伝子をホモに持つため、「Hm3Pc」と感受性個体との交雑次代も100%の個体が抵抗性を示す(表2)。
  • 2倍体で、出穂始日は「ニオウダチ」より7日程度遅く、早生の晩である。

成果の活用面・留意点

  • ライグラス類およびフェストロリウムにおいて、冠さび病抵抗性を付与する育種に利用できる。
  • 稈長や葉身長が短いなど、収量性と関係すると考えられる特性について既存品種との差異があるため、品種育成の際には、戻し交雑により優良品種・系統の遺伝的背景を持たせる必要がある。

具体的データ

図1 LmPc3のAFLPマーカーとSSRマーカーを用いた連鎖地図

図2 Hm3Pcの育成経過

表1 「Hm3Pc」、「ニオウダチ」および「はたあおば」の冠さび病抵抗性程度

表2 「Hm3Pc」と「ワセアオバ」との単交雑次代の個体別冠さび病抵抗性

 

その他

  • 研究課題名:飼料作物の育種素材開発のためのDNAマーカー利用技術と遺伝子組換え技術の開発
  • 課題ID:221-l
  • 予算区分:委託プロ(DNAマーカー)、基盤
  • 研究期間:2001~2007年度
  • 研究担当者:荒川明、藤森雅博(山梨酪試)、平田球子(日草種協)、清多佳子、高溝正、矢崎聖二(日草種協)
  • 発表論文等:荒川ら(2007)「イタリアンライグラス中間母本農2号」品種登録出願第21623号