糞虫は牛糞の分解により土壌への窒素移動と牧草の窒素吸収を促す

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要約

牧草地へ牛糞を設置し糞虫を働かせると、糞の分解が促進され、糞直下土壌の無機態窒素濃度が増加する。また、糞虫の数が多いほど牛糞から土壌への窒素移動が促進され、糞周辺の牧草の窒素吸収が高まる。

  • キーワード:糞虫、牛糞、土壌、牧草、窒素
  • 担当:畜産草地研・山地畜産研究チーム、草地多面的機能研究チーム
  • 連絡先:電話0267-32-0762
  • 区分:畜産草地、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

放牧は施肥量を抑制できる環境保全型の畜産である。このため養分を多く含む放牧牛の排泄糞は放牧草地の養分循環の中で重要な存在 である。この牛糞の養分が土壌や牧草へ移行する過程で、糞を餌として利用している糞虫による糞の分解活動が重要な影響を及ぼしていると考えられる。糞虫の 働きが糞の分解と土壌養分への影響、および牧草による養分吸収に与える影響について実験的に明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 放虫区では無放虫区と比較して、糞設置初期から糞の乾物重量及び窒素含量の減少が早く進み、分解が促進される(図1)。また、この影響は468日後の試験終了時においても認められる。
  • 糞直下土壌の無機態窒素濃度は、放虫区では試験開始1週間後から上昇し、120匹放虫区ではより高く推移する(図2)。
  • 糞の周囲の牧草による窒素吸収量は、120匹放虫区で糞設置から2年目の410日以降に高くなる傾向にあり、試験期間中の合計窒素吸収量も120匹放虫区で最も高い(図3)。
  • 以上の結果から糞虫の活動により牛糞の分解と牛糞から土壌への窒素移動が促進され、120匹放虫区では糞周辺の牧草の窒素吸収が高まる。

成果の活用面・留意点

  • 放牧草地での糞の分解と窒素循環に及ぼす糞虫活動の影響を定量的に示すとともに、糞虫の保全の重要性を示すデータである。
  • 試験地は標高約1000mに位置し、放牧期間(5~10月)の平均気温、積算降水量の平年値は15.6℃、797mmである。観察できた糞虫の多くは糞を埋め込んで利用するタイプであり、これら埋め込み型の糞虫を供試した試験結果である。

具体的データ

表1 試験に使用した糞虫の種組成

図1 残存糞の乾物重量(左図)と窒素含量(右図)の推移

図2 糞直下深さ10cm土壌の無機態窒素濃度の推移 図3 糞周囲の牧草による窒素吸収量

 

その他

  • 研究課題名:放牧技術の普及に向けた家畜生産技術の高度化と多様な飼料資源を活用した放牧技術の開発
  • 課題ID:212-d.5
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2001~2007年度
  • 研究担当者:山田大吾、井村治、時坤、渋谷岳
  • 発表論文等:Yamada D. et al. (2007) Grassl Sci 53(2):121-129