暑熱環境はホルスタイン種育成牛の栄養素の利用性と配分に影響する

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要約

体重200kg程度のホルスタイン種育成牛に対する暑熱の影響は、28℃では呼吸数増加のみに現れる。33℃では粗飼料摂取量は低下し、飼料の消化管内滞留時間の増加により消化率は上昇するが、蛋白質の利用効率の変化により蛋白質としての蓄積量は減少する。

  • キーワード:暑熱環境、育成牛、家畜生理・栄養
  • 担当:畜産草地研・畜産温暖化研究チーム・栄養素代謝研究チーム・機能性飼料研究チーム・分子栄養研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-8600
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

地球温暖化により家畜の生産性および畜産物の品質の低下が予想され、その対策技術の開発は急務である。一般に育成牛は泌乳牛と比 較して暑熱に強いことが知られているが、暑熱環境が育成牛の栄養素の利用性に及ぼす影響を詳細に検討した研究はほとんどない。そこで本課題では、育成前期 のホルスタイン種雌牛において生理反応および代謝などを測定することにより、暑熱環境が栄養素の利用性に及ぼす影響について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 育成前期のホルスタイン種雌牛4頭(試験開始時月齢8ヶ月、体重198kg)を温度条件20℃、28℃および33℃(湿度は 60%一定)の3水準に順次2週間ずつ負荷する。飼料はイタリアンライグラスサイレージ、アルファルファヘイキューブ、配合飼料を乾物として 45:5:50の割合で、増体日量0.8kg(日本飼養標準・乳牛1999)を目標に朝夕2回に分けて給与する。各環境下において後半4日間に開放型呼吸 試験装置を用いてエネルギー出納試験等を実施する。
  • 20℃と比較して28℃では呼吸数が増加し、33℃ではさらに体温も増加する(表1)。20℃と比較して、28℃では乾物摂取量は低下しないが、33℃では粗飼料摂取量が低下する傾向にある。また乾物消化率は33℃において増加する(表1)が、代謝エネルギー摂取量に差は認められない。
  • 血漿グルコース濃度および甲状腺ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)濃度は33℃において低下する(表2)。
  • 環境温度の上昇にともないルーメン内液のpHは低下し、VFA中の酢酸比率および酢酸/プロピオン酸比も低下する。また飼料の固相の消化管内滞留時間は増加する(表3)。
  • 33℃において増体量に差は認められないが、蛋白質としての蓄積量は低下する(図1)。
  • 体重200kg程度の育成牛に対する暑熱の影響は、28℃では呼吸数増加のみに現れる。33℃では、生理反応だけでなく栄養素の利用性および配分にも影響する。

成果の活用面・留意点

  • ホルスタイン種の育成指針を作成する際の基礎資料となる。
  • 育成後期や相対湿度が60%を超えるような暑熱条件下においては結果が異なる可能性がある。

具体的データ

表1.環境温度が育成牛の生理反応、乾物摂取量および消化率に及ぼす影響

 

表2.環境温度が育成牛の血液性状に及ぼす影響

 

表3.環境温度が育成牛の第一胃性状および消化管内滞留時間に及ぼす影響

 

図1.環境温度が育成牛の蛋白質および脂肪蓄積に及ぼす影響

 

その他

  • 研究課題名:気候温暖化が畜産に及ぼす影響の解明とそれに対応した生産管理技術の開発
  • 課題ID:215-a
  • 予算区分:交付金プロ(気候温暖化)
  • 研究期間:2003~2007年度
  • 研究担当者:野中最子、田鎖直澄、田島 清、樋口浩二、竹中昭雄、栗原光規
  • 発表論文等:Nonaka I. et al. (2008) Livest. Sci. 113 (1) : 14-23