斑点米カメムシ抵抗性牧草の育種に活用できるエンドファイト「Neotyphodium occultans

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要約

エンドファイトの一種Neotyphodium occultansが感染したイタリアンライグラスは、斑点米カメムシ抵抗性物質であるN-フォルミルロリンを蓄積し、摂食したアカヒゲホソミドリカスミカメの生存率を低下させる。近縁種の菌で問題となる家畜毒性物質は蓄積しない。

  • キーワード:エンドファイト、害虫抵抗性、斑点米カメムシ類、ライグラス、飼料作物育種
  • 担当:畜産草地研・飼料作環境研究チーム、飼料作物育種研究チーム、畜産温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話0287-36-0111(内線8572)
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

イタリアンライグラスなどのイネ科牧草は、斑点米の原因となるカメムシ類(斑点米カメムシ)の発生源になりやすいため、水田周辺での作付けのためには斑点米カメムシ抵抗性牧草の開発が求められる。Neotyphodium属のエンドファイト(植物共生糸状菌)が感染した牧草は各種の害虫に抵抗性を示す例が知られ、斑点米カメムシ抵抗性牧草の作出に活用できる遺伝資源として期待されている。しかし、エンドファイトは植物中に家畜毒性物質を産生する場合もある。そこで、近年イタリアンライグラスで発見されたエンドファイト、N. occultansのカメムシ防除素材としての有効性を評価するため、N. occultans感染イタリアンライグラスの家畜毒性物質とカメムシ抵抗性物質の植物体中での濃度を明らかにする。また、感染植物を斑点米カメムシの主要種であるアカヒゲホソミドリカスミカメに給餌し、生存に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • N. occultansが感染したイタリアンライグラスはカメムシ抵抗性物質であるN-フォルミルロリンを蓄積し、家畜中毒の原因となるエルゴバリンおよびロリトレムBは蓄積しない(表1)。
  • N. occultansが感染したイタリアンライグラスの中には、N-フォルミルロリンに加え、ゾウムシの一種に忌避作用を示すペラミンを産生するものもある(表1)。
  • 54-10-4-4(表1)の孫世代にあたる8系統35個体の穂を摂食させたとき、アカヒゲホソミドリカスミカメの生存日数は、N-フォルミルロリンの濃度が高い植物ほど短い(図1)。
  • 特に優れた抵抗性が認められる感染植物(Tc1-14-2、Tc1-18-6)(図1矢印)では、摂食したアカヒゲホソミドリカスミカメの半数以上が48時間以内に死亡し、生存率は4日以内に10%以下となる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • N. occultansは後代植物に種子伝染するため、本菌に感染したライグラス系統はアカヒゲホソミドリカスミカメへの抵抗性を持ったイネ科牧草の育種に活用できる。
  • N. occultansが植物中に産生するN-フォルミルロリンは多くの害虫に毒性を示すことが明らかになっており、本菌に感染したライグラス系統はアカヒゲホソミドリカスミカメ以外の害虫にも有効であると考えられる。
  • N. occultansは現在のところ培地上での人工培養ができないため、菌は感染植物・感染種子として維持する必要がある。
  • 感染牧草のアカヒゲホソミドリカスミカメ抵抗性はN-フォルミルロリンの濃度に依存すると考えられるため、抵抗性牧草作出においては、この化合物の産生能力が高いエンドファイト、およびその産生・蓄積を効果的に促す宿主植物系統を選抜する必要がある。

具体的データ

表1 Neotyphodium occultans感染イタリアンライグラスのアルカロイド分析結果

図1 給餌したエンドファイト感染イタリアンライグラス(開花期の穂)中のN-フォルミルロリン濃度とアカヒゲホソミドリカスミカメ生存日数を変数とした散布図(Speamanの順位相関係数 -0.485、P=0.0031、楕円は95%の信頼限界を示す)

図2 エンドファイト感染および非感染イタリアンライグラス(開花期の穂)を給餌した場合のアカヒゲホソミドリカスミカメのKaplan-Meier生存曲線の比較(各処理n=50、P<0.01、Log-rank test)

その他

  • 研究課題名:草地飼料作における減肥・減農薬の環境対策技術の検証と新たな要素技術の開発
  • 課題ID:214-r
  • 予算区分:基盤、委託プロ(えさ)、科研費
  • 研究期間:2005~2008年度
  • 研究担当者:柴卓也、菅原幸哉、荒川明、井上達志(宮城大)、山下雅幸(静岡大)、大久保博人、神田健一
  • 発表論文等:1) Sugawara et al. (2006) Grassland Science 52: 147-154
                       2) Shiba and Sugawara (2009) Entomologia Experimentalis et Applicata 130: 55-62