日本の半自然草地の根圏土壌中におけるアーバスキュラー菌根菌相

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要約

日本の半自然草地の代表的な植生であるシバやススキなどの根圏土壌中には、地域や地上部植生に関係なく、いくつかの共通した種のアーバスキュラー菌根菌が生息する。

  • キーワード:アーバスキュラー菌根菌、半自然草地、シバ、ススキ
  • 担当:畜産草地研・草地多面的機能研究チーム
  • 代表連絡先:電話0287-36-0111
  • 区分:畜産草地、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

菌根菌は多くの植物種に共生することができ一般的に宿主特異性はないとされるが、親和性があることが報告されている。したがって、日本の半自然草地において植生または環境がアーバスキュラー菌根菌(菌根菌)に及ぼす影響を知るため、対照として人工草地も含め、異なる地域や植生の根圏土壌中の菌根菌相を調べる。土壌中の胞子は形態が壊れているものがあり種の同定が困難であるため、採取土壌を接種源として新たな胞子を増殖させる方法(土壌トラップカルチャー)でも比較する。

成果の内容・特徴

  • シバ、ススキなどが優占する半自然草地の植物の根圏土壌中の菌根菌相を、広域にわたる日本の異なる地域(白老、川渡、那須、大田、阿蘇、都井岬)について比較した初めての報告である。
  • 顕微鏡による土壌中の胞子の直接観察法では、半自然草地や阿蘇の人工草地の植物根圏土壌中には地域や地上部植生に関係なく、共通した菌根菌の優占種、Glomus rubiforme(形態1)や Glomus 属(形態2)が存在する(表1、図1)。大田の人工採草地ではG. rubiformeは見られない。Acaulospora koskeiに似た種(形態3)は割合は低いが多くの草地の根圏土壌で観察される。胞子密度のばらつきは大きく、草地内土壌中の菌根菌の分布には不均一性がある。
  • 土壌トラップカルチャーで増殖する胞子は、Acaulospora morrowiaeに似た種(C)など、幾つかの草地土壌試料で増殖する種が存在し、菌根菌の種が約150種記載されている中で、全体でも10種程度に収まる(表2)。これらは直接観察法でもときどき見られる種である。半自然草地の土壌を接種源とした方が、人工草地の土壌と比べて増殖する菌根菌の種が多い傾向がある。

成果の活用面・留意点

  • 本研究による日本の半自然草地の植物根圏土壌中の菌根菌相の知見は、草地における生物多様性の基礎的情報として重要である。
  • 大田人工採草地ではG. rubiformeは見られず、Glomus clarumに似た種が優占しているなど、環境や管理の違いによる菌根菌相への影響があることが示唆される。今後は特に他の地域の人工草地のデータを増やし、比較検討する必要がある。

具体的データ

表1 供試土壌の概要と菌根菌胞子密度・形態別胞子の割合

図1 草地土壌中によく観察された菌根菌胞子

表2 土壌トラップカルチャーの宿主植物と観察された主な菌根菌胞子(/10g土壌)

その他

  • 研究課題名:草地生態系の持つ多面的機能の解明
  • 課題ID:421-b
  • 予算区分:基盤、ジーンバンク、科研費
  • 研究期間:2003~2007年度
  • 研究担当者:小島知子、斎藤雅典(東北大)、小路敦、安藤貞、高橋俊、西脇亜也(宮崎大)
  • 発表論文等:小島ら(2009) 日草誌 55:148-155