火山麓草地小流域における土壌水中硝酸態窒素負荷の実態

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

草地の尾根部では透水性の低い土層があり鉛直方向に硝酸態窒素が流出せず谷部に排出されるため、施肥は地域標準量であるが谷部での硝酸態窒素濃度は高い。しかし谷部下流の無施肥草地、林地で濃度は低下し、さらに湧水では低くなる。

  • キーワード:草地、施肥、硝酸態窒素、土壌水、流域
  • 担当:畜産草地研・資源循環・溶脱低減研究草地サブチーム
  • 代表連絡先:電話0287-36-0111
  • 区分:畜産草地、関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

傾斜地に多い草地では、立地する地形ごとの窒素養分の流出が解明されると、地形連鎖のもつ自然浄化機能を活用した汚濁負荷低減が可能となる。しかし、複雑な地形で構成される山地傾斜地では、その流域地形の上流域から湧水までの土壌水中の養分負荷の実態は明らかではない。そこで、放牧草地が広い面積を占める火山麓草地流域内の尾根・谷の地形において施肥、無施肥に対応した土壌水中の硝酸態窒素に着目しその流出実態を解明する。調査地は黒ボク土壌からなり流域中央に谷のある御代田流域である(表1、図1)。

成果の内容・特徴

  • 流域の土壌水中100cm深の硝酸態窒素濃度は、谷部に位置する施肥草地、無施肥草地、林地の順に低下し、湧水部での変動は少なくもっとも濃度が低い(図2)。すなわち、施肥される窒素は地域標準量である(表1)が、谷部施肥草地での濃度は25mg/Lと高い。しかし、無施肥草地では14mg/L、林地では6mg/Lと低下する。さらに湧水の濃度は2.6mg/Lと低くなる。一方、尾根部の施肥草地では4mg/Lで谷部の林地より小さく、尾根部林地では0.05mg/Lと低い。
  • 尾根斜面では土壌水の鉛直方向フラックスは、降雨後に10~20cm深、および20~50cm深で移動量が増加するが、50~100cm深では日量1mmと少ない(図3)。土壌中の水分移動は50cm以深より下方へは透水性が低いため少なく、降雨浸透水は鉛直方向よりも土壌表層を傾斜に沿う側方流として流動している。このため尾根部の施肥草地では硝酸態窒素負荷をもつ土壌水が鉛直下方に100cm深まで達することが少ないため硝酸態窒素濃度が低くなる。
  • 谷に沿う土壌水の動きは、降雨により10~100cm深までポテンシャルが下流方向に増加し高いこと(図4上)から、下方へ雨水の浸透が進むとともに尾根斜面から土壌水が集まり土壌水分が増加することをしめす。谷に沿う硝酸態窒素濃度は、施肥草地の下流側で増える(図4中)が、これは周囲の尾根斜面および谷上流から硝酸態窒素濃度の高い土壌水の移動があることを示す。また無施肥草地では、施肥草地との隣接部ほど硝酸態窒素濃度が高く、上流からの移動があることを示す。
  • 土壌水のpHは、施肥草地で減少し無施肥草地および林地で増加する(図4下)。谷部施肥草地では、施肥窒素の硝化した成分が集まるため硝酸態窒素の濃度が高くなりpHが低下すると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 流域の谷において土地利用ごと、地形ごとの土壌水中の硝酸態窒素濃度の変動を示したデータであり、流域内での施肥窒素の影響を検討する際に参考となる。
  • 黒ボク土壌からなる草地流域を対象とし上流から下流方向への土壌水の移動がある場合の事例である。

具体的データ

表1 調査流域の概要と調査方法

図1 流域の地形・土地利用と測定地点

図2 土地利用ごとの硝酸態窒素濃度

図3 降雨にともなう尾根斜面における土壌水の鉛直方向フラックス T2 地点。圧力状態の変動か

図4 谷に沿う土壌水の圧力状態、硝酸態窒素およびpH の変化(年平均値2006 年)

その他

  • 研究課題名:有機性資源の農地還元促進と窒素溶脱低減を中心にした農業生産活動規範の推進のための土壌管理技術の開発
  • 課題ID:214-q.1
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:山本博