乳化ブスルファン液の卵黄内投与によるニワトリ始原生殖細胞の効率的除去法

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要約

乳化したブスルファンを培養1日目のニワトリ初期胚の卵黄へ投与することにより、胚が有する始原生殖細胞を効率的に除去できる。

  • キーワード:始原生殖細胞、ニワトリ、家畜育種
  • 担当:畜産草地研・家畜育種増殖研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8624
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

キメラニワトリを介して細胞からの家禽遺伝資源の再生などを行う場合、移植したドナー細胞由来の後代の割合を高めるためには、レシピエント胚に存在する始原生殖細胞(PGC)を予め除去しておくことが最も有効である。そのため、生殖細胞を除去する効果を有する薬剤であるブスルファンを用いたPGC除去法の開発が試みられてきた。しかし、これまでの方法では、PGCを確実に除去することは困難であった。その原因として、投与後のブスルファンが早期に卵黄または卵白中に拡散してしまうことが考えられる。そこで、ブスルファン溶液を乳化することによって、ニワトリ胚への薬剤の確実な輸送および早期拡散の防止による効率的なPGC除去技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 乳化ブスルファン液は、ブスルファンをジメチルホルムアミドに溶解した後、10%溶液となるようにPBSで希釈し、シラス多孔ガラス膜を通して等量のごま油と混合することにより作製する(最終濃度75μg/50μl)。
  • 乳化ブスルファン液を培養1日目のニワトリ卵黄中に30G針を装着した1mlシリンジを用いて50μl投与する。乳化ブスルファン液は、卵黄より比重が軽いため、投与後直ちに拡散することなく卵黄の上方へ移動し、卵黄頂部に存在する胚の全体を覆う(図1)。このため、ブスルファンをニワトリ胚周辺へ確実に輸送し、徐放的に作用させることができる。
  • 6日目まで培養した乳化ブスルファン液投与胚のPGC数は、無処理胚に比較して平均3%程度まで減少する(図2A)。また、本法によりPGCが完全に除去された胚を得ることも可能である (図2B)。

成果の活用面・留意点

  • この方法は、PGCを除去したニワトリ胚の作製に利用できる。
  • 乳化ブスルファン液投与胚の培養6日目までの生存率(70%)は、無処理胚(90%)と比較して低いが、有意差は見られない。
  • 乳化ブスルファン液を投与した胚をレシピエント胚として、ドナーPGCを移植した場合、卵黄内に残留しているブスルファンが移植後のドナーPGCの移動能や増殖性に影響を及ぼすかどうかについては不明である。

具体的データ

図1 乳化ブスルファン液の卵黄内投与法およびその薬剤動態

図2 乳化ブスルファン液を投与した6日目胚の生殖巣における始原生殖細胞(赤紫の点が始原生殖細胞)

その他

  • 研究課題名:家畜生産性向上のための育種技術及び家畜増殖技術の開発
  • 課題ID:212-j
  • 予算区分:ジーンバンク
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:田上貴寛、武田久美子、韮澤圭二郎、中村隼明(信州大農)
  • 発表論文等:1) Nakamura Y. et.al. (2007) Poult. Sci. 86(10): 2182-2193
                       2) Nakamura Y. et.al. (2008) Reprod. Fertil. Dev. 20(8): 900-907