ウシの第一胃(ルーメン)にはクエン酸などに応答する細菌が生息する
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要約
ルーメン微生物生態系からクエン酸、フマル酸、リンゴ酸に反応するセンサータンパク質遺伝子が見つかったことから、ルーメン内にはクエン酸などに応答して代謝調節を行う細菌の存在が示唆された。
- キーワード:ルーメン細菌、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、センサーヒスチジンキナーゼ
- 担当:畜産草地研・分子栄養研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-8660
- 区分:畜産草地
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
ウシが摂取した飼料はルーメン内に生息する微生物(ルーメン微生物)による分解作用を経て発酵産物である揮発性脂肪酸はルーメン壁から吸収され、増殖した微生物体は第四胃以下で消化吸収されてウシの栄養源となる。ルーメン微生物生態系の消化能力を高めるためには、ルーメン細菌の遺伝子調節機構を明らかにすることが必要である。そこで、ルーメン内に生息している多種多様な細菌はルーメン環境に応じてその代謝を調整しているとの予測に基づき、環境変化に感応するセンサータンパク質遺伝子の検出を試みることで、ルーメン微生物生態系制御のための基礎的知見を得る。
成果の内容・特徴
- ルーメン内容物から抽出したDNAからセンサータンパク質としてセンサーヒスチジンキナーゼ(HPK)遺伝子の検出をPCRにより実施したところ、2個のHPK遺伝子(agr-R1 (296 bp)およびagr-R2 (314 bp))が得られた。
- agr-R1とagr-R2から推定したアミノ酸配列(Agr-R1とAgr-R2)にはHPKで共通して見られるアミノ酸配列(Consensusアミノ酸配列)が観察され、HPK活性があると推定される(図1)。
- さらに、agr-R1とagr-R2をドメイン構造のデータベースで検索すると、クエン酸またはC4-dicarboxylates(リンゴ酸、フマル酸など)に感応するHPK(CitA/DcuS様HPKグループ)であることが示唆される。
- 推定アミノ酸配列(Agr-R1とAgr-R2)を近隣結合法による系統樹で他のHPKとの位置を見ると、図2に示すとおり、Agr-R1はAlkaliphilus oremlandiiのHPKとの、Agr-R2はClostridium thermocellumのHPKとの分岐点を持つことから、それらは共通のHPKから進化したと推察される。
成果の活用面・留意点
- HPKを介する遺伝子調節機構があるルーメン細菌の存在が示唆され、クエン酸などによるルーメン微生物制御のための基礎となる。
- ルーメン内へフマル酸を添加すると温室効果ガスであるメタンのルーメン内産生が抑制されることが知られており、この効果の確認および増強への応用が可能である。
具体的データ


その他
- 研究課題名:栄養素による遺伝子発現調節機能の解明
- 課題ID:221-m
- 予算区分:基盤、交付金プロ(形態・生理)
- 研究期間:2006~2008年度
- 研究担当者:三森真琴、竹中昭雄、真貝拓三、Sun Weibin(西北農林科技大学、中国)
- 発表論文等:Weibin S. et al. (2008) Lett. Appl. Microbiol. 47 (5) :462-466