カテプシンBの活性制御による牛胚品質の向上
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要約
システインプロテアーゼ群に属するカテプシンBは低品質の卵子細胞質内でその発現が高く、高品質卵子では低い。また、成熟培養時にカテプシンBの活性阻害を行うことで、低ランクのみならず高ランク卵子の体外受精後の胚発生率が向上する。
- キーワード:牛、卵子、品質、カテプシン、体外成熟、胚発生
- 担当:九州沖縄農研・特命チーム員(高度繁殖技術研究チーム)
- 代表連絡先:電話096-242-7746
- 区分:畜産草地
- 分類:研究・普及
背景・ねらい
胚移植に利用する初期胚について、生存性の高い良質なものを作出、選別、保存することで受胎性を高めて家畜生産効率を上げることは重要である。特に、血統・個体の明らかな生体より卵子を採取して胚の体外生産を行う際には、少数の卵子から効率的な胚の作出が求められる。一方、リソゾーム内に存在し、細胞内の不要な蛋白質の分解・再構成を行う役割を持つシステインプロテアーゼであるカテプシンBは、ストレスや環境の影響等によりリソゾームから漏出することで組織細胞の機能阻害やアポトーシスを引き起こすことが知られている。本研究では、カテプシンBの牛卵子での動態を解明するとともに、その制御による高品質胚の生産技術を確立する。
成果の内容・特徴
- 食肉処理場由来卵巣より採取した卵丘卵子複合体(COC)を国際胚移植学会による分類に従って1)卵丘細胞付着状態および卵子細胞質の形態的な評価にて高ランクおよび低ランクに分類し、2)22時間成熟培養した後に卵丘細胞を除去した卵子について生細胞の状態でカテプシンBの活性を検出したところ、高ランクと比べて低ランクの卵子でカテプシンBの高い活性(図1A)および発現(図1B)が見られる。このことから、卵子品質と細胞質内カテプシンは深く関与している。
- カテプシンBの阻害剤(E~64)を1μMの濃度で培養液中に添加して22時間体外成熟培養すると、細胞内のカテプシン活性を示す蛍光が減少する(図2)ことから、牛卵子における細胞内カテプシン活性制御が可能である。
- 卵子採取時に分別した低ランクのCOCのみを用い、その体外成熟時にカテプシンB阻害剤を1μMの濃度で培養液中に添加して成熟させると、体外受精・体外発生後の胚盤胞への発生率が有意に増加する(図3)ことから、細胞内カテプシン活性制御による低品質卵子の有効活用につながる。
- カテプシンB阻害剤を1μMの濃度で体外成熟培養液中に添加して体外成熟させることにより、通常の体外受精に用いられる形態的に高ランクに分類されたCOCについても、体外受精・体外発生後の胚盤胞への発生率が有意に増加する(図4)ことから、低品質のみならず、通常品質の卵子についてもカテプシン活性制御による品質向上が可能である。
成果の活用面・留意点
- カテプシン阻害剤であるE~64はヒトの筋ジストロフィー治療薬として以前から臨床治療に用いられており、ヒトにおける安全性については既に確認されている。
- カテプシンBの活性測定には蛍光顕微鏡による検出法、量的解析は特異抗体による免疫検出法により行う。
具体的データ




その他
- 研究課題名:高品質畜産物生産のためのクローン牛等の安定生産技術の開発
- 中課題整理番号:221n
- 予算区分:基盤
- 研究期間:2008~2009年度
- 研究担当者:高橋昌志、阪谷美樹、山中賢一、Ahmed Z Balboula(Mansoula大学)
- 発表論文等:Balboula AZ. et al. (2010) Mol. Reprod. 78 online 1-10