宿主由来の遺伝子による除草剤耐性組換えトウモロコシ自殖系統「mALSMi29」

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要約

トウモロコシからクローニングしたALS遺伝子に2点変異を施すことにより、ALS型除草剤に対して耐性となる。「mALSMi29」は、この遺伝子を国産自殖系統Mi29へアグロバクテリウム法により導入した遺伝子組換え体である。

  • キーワード:飼料作物育種、トウモロコシ、アグロバクテリウム、形質転換
  • 担当:畜産草地研・飼料作物育種工学研究チーム
  • 代表連絡先:電話0287-37-7694
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

除草剤耐性等新規有用形質を備えた組換えトウモロコシの開発のためには国産自殖系統を用いた形質転換系の確立が必須である。そこで、我が国で開発されたベクター、遺伝子を国産優良自殖トウモロコシ系統に導入する。

成果の内容・特徴

  • トウモロコシ(自殖系統Na65)自身からアセト乳酸合成酵素(ALS)遺伝子をプロモーターとターミネーターごとクローニングした後、イネ等で除草剤耐性を起こさせることがわかっている2点変異を導入する(変異型ALS遺伝子、図1)。これにより、542番目のトリプトファンがロイシンに、621番目のセリンがイソロイシンに変わり、ALS型除草剤に対して耐性となる。
  • この変異型ALS遺伝子を我が国で開発された形質転換効率の高いベクターに導入した後、アグロバクテリウムLBA4404に組み込み、国産トウモロコシ自殖系統Mi29の未熟胚に感染させて共存培養する。7~10日後に0.5μMのビスピリバックナトリウム(BS=ALS型除草剤の主成分)を含む培地に移して未熟胚由来耐性カルスを選抜する。1~2ヶ月後に耐性カルスを再分化培地に移すと組換え体が再生してくる(図2左)。組換え体は鉢上げ後、正常に生育し(図2中)、雌性雄性ともに稔性を有し自殖することにより種子が得られる(図2右)。形質転換体作出の効率は20~30%である。
  • 組換え体における変異型ALS遺伝子の確認はPCR法等で、発現はin vivo assay法で確認できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 抗生物質耐性遺伝子ではない、宿主の作物自身から単離された選抜マーカー遺伝子によるトウモロコシ形質転換系が確立され、パブリックアクセプタンスを得られやすい組換えトウモロコシの開発に活用できる。
  • 「mALSMi29」は今回開発した方法を有望F1品種の親である国産自殖系統Mi29に直接適用した例であり、作出した組換え体の導入遺伝子をホモ化することにより、ALS型除草剤耐性品種の作出が早期に可能である。
  • 今回作出した組換え体の実用化のためには、導入遺伝子の挙動の詳しい解析等、食品、飼料、生物多様性に関するデータ取得が必要である。

具体的データ

図1 ゲノムウォーキング法により単離したトウモロコシALS遺伝子{プロモーター領域 (1051bp)、ORF (1917bp) およびターミネーター領域 (541 bp))への2点変異の導入。ORFの1626番目と1863番目に点変異(↓)を導入

図2 アグロバクテリウム法によりトウモロコシ由来変異型ALS遺伝子を導入したMi29の再分化(左)、鉢上げ後の生育の様子(中央)及びその自殖種子(右)

図3 変異型ALS遺伝子を導入したMi29の葉におけるALS活性(赤いほど活性が強い)。組換え体ではBS(除草剤)を加えても活性がほとんど阻害されない。

その他

  • 研究課題名:飼料作物の育種素材開発のためのDNAマーカー利用技術と遺伝子組換え技術の開発
  • 中課題整理番号:221l
  • 予算区分:委託プロ(新農業展開)
  • 研究期間:2008~2009年度
  • 研究担当者:高溝正、堀田順子(クミアイ化学)、清水力(クミアイ化学)、角康一郎(クミアイ化学)、石田祐二(JT)