イタリアンライグラスのエンドファイトは切り穂交配でも種子親から後代に伝染する

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要約

イタリアンライグラスに共生するNeotyphodium属の糸状菌エンドファイトは、茎葉から切断した切り穂を液耕状態で交配した場合でも種子親から後代種子に種子伝染するため、感染植物の育種や関連研究に切り穂での交配を用いることができる。

  • キーワード:イタリアンライグラス、エンドファイト、飼料作物育種、種子伝染、害虫抵抗性
  • 担当:畜産草地研・飼料作環境研究チーム、飼料作物育種研究チーム、畜産温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話0287-37-7556
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

イネ科牧草に共生するNeotyphodium属の糸状菌エンドファイトは、宿主植物の生育を促進し、害虫抵抗性を付与する効果が知られ、牧草や緑化植物等の栽培・育種に活用できる遺伝資源として注目されている。本菌は感染植物からその後代種子に移行(種子伝染)することで植物集団内に維持されるため、感染植物の交配育種が可能だが、近年まで穂・種子への菌の移行がいつ,どのように行われるか、不明な点が多かったため、イネ科牧草育種において省力的な交配方法として用いられている切り穂を用いた交配でも菌が種子伝染するかどうかは未検証であった。そこで、菌の穂への移行時期、および感染植物の交配育種に切り穂が利用可能かどうかを明らかにし、感染植物の育種への利用や関連研究に資する。

成果の内容・特徴

  • イタリアンライグラスに共生するNeotyphodium属の糸状菌エンドファイト、Neotyphodium occultansの穂への移行(感染)は幼穂の形成過程で既に進んでいるため(図1-1)、感染植物を種子親にすれば、切り穂を用いた交配(図1-2~1-4)を用いてもエンドファイトに感染した交配後代種子が得られる。
  • 切り穂を用いた交配で得た後代種子から幼苗を発芽させ、顕微鏡観察で調査した結果、供試した13系統中12系統で、63-100%の感染率が認められた。1系統で感染が認められず、穂の形成過程での菌の移行不全や死滅が推定されたが、その頻度は少なく、この方法は交配育種に十分使用可能である(表1)。
  • 切り穂を用いた交配で得られた種子を粉砕して菌が分泌する耐虫性物質の一種であるN-formyllolineの含量を分析したところ、顕微鏡観察で感染が認められた組み合わせでは全て含有が確認されたことから、種子成分の分析によっても感染状況の確認が可能と考えられる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 少ないスペースで多数の組み合わせを交配できる切り穂交配をエンドファイト感染植物にも適用することで、関連研究や感染植物の品種育成の効率化を図ることができる。
  • エンドファイトは環境条件等の影響で種子の保存中や植物の栽培中に減少・死滅する場合もあるので、交配の実施に先立ち、小花の顕微鏡観察による簡易検出法(菅原ら、平成15年度 畜産草地研究成果情報3:94-93)等で種子親とする穂の感染状況を確認することが望ましい。また、交配組み合わせ等によっては種子伝染率が低率となる場合もあるので留意が必要である。
  • Neotyphodium属菌の穂への移行様式は他の菌種・宿主植物でも同一であるため、この方法は他の草種での感染品種の育種、および関連研究にも活用可能と考えられる。

具体的データ

図1 エンドファイト感染イネ科牧草の切り穂交配の手順

表1 切り穂交配で得た後代植物でのエンドファイト感染率および耐虫性物質含有量

その他

  • 研究課題名:飼料作物の育種素材開発のためのDNAマーカー利用技術と遺伝子組換え技術の開発
  • 中課題整理番号:221l
  • 予算区分:基盤、委託プロ(えさ)
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:菅原幸哉、荒川 明、柴 卓也、岡部郁子、月星隆雄
  • 発表論文等:Sugawara et al. (2008) Molecular Breeding of Forage and Turf: The Proceedings of the 5th International Symposium on the Molecular Breeding of Forage and Turf. Springer, New York , p.299-307.