わが国のホルスタイン種育成雌牛の夏季増体量に及ぼす温暖化の影響予測

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

ホルスタイン種育成雌牛では、現在の8月で既に西日本、東海および関東で適温期と比較して5~15%増体量が低下しているが、温暖化の進行に伴い2060年代には西日本、東海、北陸および関東まで15%以上の増体量低下を示す地域が拡大することが予測される。

  • キーワード:地球温暖化、影響評価、ホルスタイン種育成雌牛、増体量
  • 担当:畜産草地研・畜産温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8600
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

夏季高温時という短期的な暑熱環境が家畜の生産性を低下させることは、よく認識されている。近年になり地球温暖化という長期的な視点においても、暑熱環境が畜産業に及ぼす影響を正確に把握し、推定する重要性が増してきている。また、暑熱下におけるホルスタイン種育成雌牛の増体量の低下は、育成期間の延長をもたらし経済的な損失を引き起こす可能性がある。そこで本研究では、主に月平均気温の変動予測をもとに、将来のホルスタイン種育成雌牛生産に及ぼす温暖化の影響を検討する。

成果の内容・特徴

  • ホルスタイン種育成前期雌牛4頭および後期雌牛4頭を環境温度制御室において粗濃比5:5(TDN71%,CP15%)で飼養した時の環境温度と増体量の関係を図1に示す。
  • 環境温度20°C、相対湿度60%時の1日あたりの増体量を100として、環境温度と増体量の関係を解析した結果、以下の回帰式が得られる。 y=~0.371x2+16.4x~79.8 (n=24, R2 = 0.674) y=環境温度20°C/相対湿度60%の時を100とした育成牛の増体量,x=環境温度(°C),環境温度20~33°Cにおいて適用。
  • この式より、増体量が5%低下する気温は26.4°C,15%低下する気温は28.8°Cと試算し、将来の気候予測のデータとして、Yokozawaら(2003)の「気候変化メッシュデータ(日本)」(10年あたり0.37°C上昇するモデル)を用い、地図上に図示するプログラムとして、杉浦と横沢(2004)のプログラムを用いて7~9月について年代毎に示す。
  • 現時点の8月において、既に九州、近畿地方、東海地方および関東の一部においては5~15%の増体量低下に相当する地域となっているが、2020年代には九州、瀬戸内の一部において15%以上の増体量低下が見込まれ、2060年代には西日本および東海、北陸、関東まで15%以上の増体量低下を示す地域が拡大することが予測される。日本において育成牛の夏季増体量は温暖化の影響を受け、2020、2040、2060年と年代の経過に伴い増体量の低下する地域は拡大することが示される(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 乳牛の後継育成牛の増体量への影響評価の一助となる。
  • 本実験で得られた環境温度と増体量の関係式は温度が一定の場合であり、日内変動のある一般環境よりも増体量の低下割合を大きく評価している可能性がある。
  • 一方、高温下では湿度による負の影響も大きいが、本実験の相対湿度条件は60%であり、夏季における日本の平均相対湿度である70%よりも低いため、増体量の低下割合を小さく評価している可能性がある。
  • IPCC第4次評価報告書(2007)によると21世紀の終わりには1.8~4.0°Cの気温上昇を予測している。

具体的データ

図1 環境温度と増体量の低下予測

図2 温暖化がホルスタイン種育成雌牛の夏季増体量に及ぼす影響予測

その他

  • 研究課題名:気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 中課題整理番号:215a.6
  • 予算区分:基盤、委託プロ(温暖化)
  • 研究期間:2002~2009年度
  • 研究担当者:野中最子、山崎信、田鎖直澄、樋口浩二、永西修、寺田文典、栗原光規
  • 発表論文等:野中ら(2010)、日畜会報81(1):29-35.