末梢血ナチュラルキラー細胞数はウシの輸送ストレスレベルを反映する
※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。
要約
末梢血ナチュラルキラー細胞数は輸送開始直後から増加し始め、代表的なストレス指標である血中コルチゾール濃度と正の相関が認められることから、ナチュラルキラー細胞数の動態はウシの輸送ストレスレベルを反映する有用な免疫指標となる。
- キーワード:ウシ、NK細胞、コルチゾール、末梢血、免疫、輸送ストレス
- 担当:畜産草地研・放牧管理研究チーム
- 代表連絡先:電話0287-37-7239
- 区分:畜産草地
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
ナチュラルキラー(NK)細胞は、初期の生体防御に重要な役割を果たす免疫担当細胞のひとつである。ヒトなどにおいてストレスに対し強く応答する免疫指標であることが知られているが、ウシでその事象は確認されていない。近年、ウシNK細胞に特異的な細胞表面マーカーが開発され、ウシにおいてもNK細胞とストレス応答の関係を解明することが可能となった。本課題では、飼養環境中の代表的なストレッサーである輸送に着目し、ストレスレベルが異なると考えられる山岳路と平地路でウシを輸送する際のNK細胞応答性がストレスレベルの差を反映するかについて検証する。
成果の内容・特徴
- 6~9ヵ月齢の黒毛和種去勢育成牛6頭を2頭ずつ3群に分け、それぞれを山岳輸送(M)区、平地輸送(F)区および対照(C)区に設定し、2時間の輸送試験(輸送距離:M区;約54km、F区;約58km、高低差:M区:約990m、F区;約140m)をラテン方格法により行う。試験間隔は約2週とし、血液は頚静脈から真空採血管を用いて回収する。
- ストレス指標である血中コルチゾール濃度は、輸送開始直後から上昇し、輸送直後に最大値となり、輸送2時間後には規定値レベルに回復する。本濃度はM区、F区の順に高い。
- NK細胞数は輸送開始直後から増加し、M区ではC区と比べ輸送直後に有意に高く(P<0.05)、また、F区においても高い傾向にある(図1A)。
- 白血球数、好中球数および好中球数/リンパ球数(N/L)の比は、ストレス応答により顕著に変動することが報告されているが、本試験においても著変が認められる(図1B, CおよびD)。しかしながら、これらはNK(NKp46+)細胞応答に引き続く形で輸送終了数時間後から開始される。
- ストレス指標である血中コルチゾール濃度と末梢血NK細胞数の間には正の相関(R = 0.76425, P< 0.0001)が認められ、ストレスレベルが最も高いM区ではNK細胞数の増加も著しい(図2)。
- ウシを輸送すると、末梢血NK細胞数が輸送開始直後から増加し、平地輸送と比べより過酷な輸送環境と考えられる山岳輸送ではその影響が顕著に現れることから、末梢血NK細胞数は輸送ストレスレベルを反映する有用な免疫指標となり得る。
成果の活用面・留意点
- NK細胞はウシの輸送ストレスレベルを鋭敏に反映する免疫指標として活用が期待できる。
- 今後は長距離・長時間輸送の影響やNK活性の動態について検討する必要がある。
具体的データ


その他
- 研究課題名:地域条件を活かした健全な家畜飼養のための放牧技術の開発
- 中課題整理番号:212d.6
- 予算区分:科研費
- 研究期間:2004~2007年度
- 研究担当者:石崎宏、芳賀聡、假屋喜弘(鯉渕学園)
- 発表論文等:Ishizaki H. et al (2010) J. vet Mel Sci. 72(6):747-753