乳化ブスルファン液を用いた効率的な生殖細胞置換キメラニワトリの作製法

要約

乳化したブスルファンを卵黄内へ投与したニワトリ胚を宿主として始原生殖細胞を移植した生殖系列キメラニワトリでは、生産する配偶子の99.5%が移植した細胞由来となり、ほぼ完全に生殖細胞が置換する。

  • キーワード:始原生殖細胞、ニワトリ、家畜育種
  • 担当:畜産草地研・家畜育種増殖研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8611
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

細胞レベルでの家禽遺伝資源の保存・再生のため、生殖系列キメラニワトリを介して凍結保存した始原生殖細胞からニワトリを再生するには、キメラニワトリの後代に占める移植したドナー細胞由来の個体の割合を高める必要がある。それには、宿主胚に存在する始原生殖細胞を除去する事が有効である。その方法としては、乳化ブスルファン溶液の初期胚(孵卵1日目)卵黄への投与が有効である (平成20年度畜産草地研究成果情報(8号, No.17))が、孵卵1日目の投与では始原生殖細胞の移動能や増殖性を阻害する。そこで、乳化ブスルファン溶液を孵卵開始直前の宿主胚へ投与後、始原生殖細胞を移植してキメラニワトリを作製し、交配試験によりドナー始原生殖細胞由来の後代の割合を調べて生殖細胞の置換効率を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 乳化ブスルファン液は、ブスルファンをジメチルホルムアミドに溶解した後、10%溶液となるようにPBSで希釈し、シラス多孔ガラス膜を通して等量のごま油と混合することにより作製する(最終濃度100μg/50μl)。
  • 乳化ブスルファン液を孵卵開始直前のニワトリ受精卵卵黄中に30G針を装着した1mlシリンジを用いて50μl投与する。乳化ブスルファン液は、卵黄より比重が軽いため、投与後直ちに拡散することなく卵黄の上方へ移動し、卵黄頂部に存在する胚の全体を覆い、ニワトリ胚周辺へ確実に到達するので、徐放的に作用させることができる。
  • 乳化ブスルファン液投与胚を2.5日間孵卵し、その血管中にドナー細胞として始原生殖細胞を移植する方法により、生殖系列キメラニワトリ胚を作製する。キメラ胚は孵卵を継続して孵化させることで生殖系列キメラニワトリを産生できる(図1)。
  • 乳化ブスルファン液投与胚を宿主とした生殖系列キメラニワトリ(n=11)は、その後代の平均99.5%(範囲:97.5-100%)が移植したドナー始原生殖細胞由来であり、ほぼ完全に生殖細胞をドナー始原生殖細胞由来の配偶子に置換することが出来る(図2)。
  • 乳化ブスルファン液非投与胚を宿主として作製された生殖系列キメラニワトリ(n=12)におけるドナー始原生殖細胞由来の後代の割合は平均6.0% (範囲:2.2-11.5%)である。

成果の活用面・留意点

  • 本技術を用いることにより、ニワトリ始原生殖細胞から効率的に個体を再生できる。
  • 乳化ブスルファン液を投与したニワトリ胚の孵化率は、36.4% (n=88)であり、非投与のニワトリ胚の孵化率74.3%(n=74)に比較して有意に低い (P<0.05)。生殖系列キメラニワトリ胚の作製する場合は、この孵化率を考慮して作製するキメラ胚数を決定する。

具体的データ

乳化ブスルファンを投与した宿主胚へ始原生殖細胞を移植した 生殖系列キメラニワトリの作製法

生殖系列キメラニワトリ(白色)同士の交配により復元された横斑 プリマスロック(黒色)

その他

  • 研究課題名:家畜生産性向上のための育種技術及び家畜増殖技術の開発
  • 課題ID: 212j
  • 予算区分:基盤、ジーンバンク
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:田上貴寛、武田久美子、韮澤圭二郎、中村隼明(信州大 農)
  • 発表論文等:1)Nakamura Y. et al. (2008) Reprod. Fertil. Dev. 20 (8):900-907
                       2)Nakamura Y. et al. (2009) J. Poult. Sci. 46 (2):127-135
                       3)Nakamura Y. et al. (2010) Biol. Reprod. 83 (1):130-137