始原生殖細胞と生体の同時保存によるニワトリ遺伝資源の効率的保存システム

要約

ニワトリ遺伝資源の保存において、ニワトリ胚の採取血液より分離した始原生殖細胞を凍結保存するとともに、採血後の胚の孵卵を継続し、孵化させることによって生体としても維持することにより受精卵を最大限有効活用することができる。

  • キーワード:始原生殖細胞、ニワトリ、家畜育種
  • 担当:畜産草地研・家畜育種増殖研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8611
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

始原生殖細胞は発生初期のニワトリ胚に存在する精子または卵子の元となる細胞で、孵卵2.5日目胚から採血した血液を密度勾配遠心することにより採取することができる。その凍結は鳥類遺伝資源を保存する上で有効な手段である。しかしながらその採取には発生中の胚を卵殻から取り出すため、本来なら孵化する可能性のある胚を損失するという問題がある。そこで、貴重な胚を損なわないために、採血した胚を継続培養して孵化させ、生体(温存個体)として維持する一方で、凍結保存した始原生殖細胞由来のキメラ個体を作製して温存個体と交配し、受精卵を最大限に有効活用する方法の開発を目指す。

成果の内容・特徴

  • 保存対象となる品種・系統(岐阜地鶏)のニワトリの放卵直後の受精卵を割卵し、卵黄部分のみを鋭端部を切除した代理卵殻へ移植した後、切除面をラップで覆った胚を作製する。約2.5日間孵卵した胚から採血し、血液中から分離した始原生殖細胞を液体窒素中で凍結保存する(図1)。
  • 採血後の胚は、卵重70g?90gの大型卵の鈍端部を切除した卵殻に移してラップで覆い、継続して培養し、孵化させる(図1)。孵化した個体は、生体として維持できる。またこれらは通常の岐阜地鶏と同等の繁殖能力を有している(調査期間:30週齢~50週齢)。
  • 血液中の始原生殖細胞数が異なる2系統の白色レグホーン種(白河系(平均始原生殖細胞数 46.5個/μl)、岡崎系(平均始原生殖細胞数 15.5個/μl))の2.5日胚を宿主胚として、凍結融解した岐阜地鶏の始原生殖細胞を100個程度移植することにより、生殖系列キメラニワトリが作製される。いずれの系統を宿主胚とした場合でも作製された生殖系列キメラニワトリ(15羽)は全て移植した始原生殖細胞由来の配偶子を生産する(表1)。
  • 作製された生殖系列キメラニワトリと採血後の胚から育てた個体(温存個体)の交配により、凍結保存した始原生殖細胞由来の個体を再生することができる (表1)。また、岡崎系を宿主として作製した生殖系列キメラニワトリ同士の交配によっても復元が可能である(復元率3%、図2)。

成果の活用面・留意点

  • この遺伝資源保存システムは、岐阜地鶏以外のニワトリ品種・系統およびニワトリ以外の家禽や受精卵採取の機会に制約のある絶滅危惧種などの希少鳥類への応用が可能であり、新たな遺伝資源保存法として生物多様性の維持に貢献することが期待できる。
  • 移植細胞由来の後代の割合を高めるためには、胚における血液中の始原生殖細胞数が少ない系統を宿主胚として選択することが有効となる可能性がある。
  • 本方法で作製された生殖系列キメラニワトリ同士の交配による個体復元率は低い。そのため、宿主胚の持つ始原生殖細胞を除去する方法等と組み合わせることにより保存細胞からの遺伝資源復元技術がさらに向上することが期待される。

具体的データ

採取元を温存した始原生殖細胞の採取・凍結保存と岐阜地鶏の復元

生殖系列キメラニワトリと温存個 体(岐阜地鶏)との交配試験結果生殖系列キメラニワトリ(白色)同士 の交配により復元された岐阜地鶏(茶色)

その他

  • 研究課題名:家畜生産性向上のための育種技術及び家畜増殖技術の開発
  • 課題ID: 212j
  • 予算区分:基盤、ジーンバンク
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:田上貴寛、武田久美子、韮澤圭二郎、中村隼明(信州大 農)
  • 発表論文等:1)Nakamura Y. et al. (2010) Reprod. Fertil. Dev. 22 (8) :1237-1246
                       2)Nakamura Y. et al. (2011) J. Poult. Sci. 48 (1) :57-63