堆肥散布量が異なる草地からの一酸化二窒素とメタンの発生量

要約

木質系の副資材を含む堆肥を表面散布した永年草地からの一酸化二窒素の年間発生量は、堆肥散布量の増加とともに増加するが、その排出係数(0.068%)は、堆肥散布量に依存しない。堆肥散布後のメタンの発生量は僅かで、草地によるメタンの年間吸収量を変化させない。

  • キーワード:一酸化二窒素、草地、堆肥散布量、排出係数、メタン、木質系堆肥
  • 担当:畜産草地研・草地多面的機能研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8611
  • 区分:畜産草地、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

本州では、堆肥化過程で、牛ふん尿にバークやオガクズなど木質系副資材が添加される場合が多い。また、乳肉牛の堆肥を草地に多量散布することが必要な農家も存在する。しかし、木質系副資材を含む堆肥を表面散布した草地からの一酸化二窒素(N2O)の発生量の情報は存在せず、化学肥料と同様の排出係数が使われている。また、スラリーでは、散布量が増加すると排出係数が急増する場合のあることが報告されているが、堆肥では、散布量と排出係数の関係は明らかでない。また、草地によるメタン(CH4)の吸収量の情報は少なく、堆肥散布量との関係も明らかでない。本研究のねらいは、バークまたはオガクズを含む堆肥散布量の違いが、草地からのN2OとCH4の発生量・吸収量に及ぼす影響を調べることである。

成果の内容・特徴

  • N2Oの年間発生量は、堆肥散布量の増加とともに増加するが、堆肥散布量の違いは、N2Oの排出係数には影響しない。N2O排出係数の平均値は0.068 ± 0.013%である(表1)。
  • 堆肥散布直後と夏季(7~9月)にN2O発生量が増加するが(図1)、堆肥散布直後(10日間)のN2O発生量は、堆肥散布から約5ヶ月間(140日間)のN2O発生量の僅か8~13%と比較的少ない。
  • 堆肥散布から140日間のN2O発生量は、堆肥散布量、堆肥の全窒素濃度、積算降水量の増加とともに増加する。
  • 堆肥散布直後等、僅かにCH4が発生する場合があるが、堆肥散布量との関係は認められない(図2)。堆肥散布量の違いは、草地によるCH4の年間吸収量を変化させない(表1)。CH4の年間吸収量の平均値は0.66 ± 0.16 kg C ha−1 year−1である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 木質系副資材を添加した堆肥を永年草地に表面散布した際のN2O排出係数として活用され、日本の草地からの温室効果ガス発生量算定精度の向上に貢献する。農用地の土壌(その他の作物)への化学肥料の施肥に伴う N2O の排出係数は0.62 ± 0.48%である(温室効果ガスインベントリ報告書)。
  • 近隣の民間牧場で生産されたバークまたはオガクズを副資材とする乳牛堆肥(表2)を春秋の2回に分け、0、50、100、200、300 t ha−1 year−1散布した畜産草地研のオーチャードグラス単播草地におけるクローズド・チャンバー法による2年間の調査結果に基づく。

具体的データ

草地からのN2OとCH4の年間発生量とN2Oの排出係数

堆肥散布量が異なる草地からのN2Oフラックスの季節変化

堆肥散布量が異なる草地からのCH4フラックスの季節変化

供試堆肥の理化学性

その他

  • 研究課題名:草地生態系の持つ多面的機能の解明
  • 中課題整理番号:421b
  • 予算区分:委託プロ(温暖化)
  • 研究期間:2006~2009年度
  • 研究担当者:森昭憲、寳示戸雅之
  • 発表論文等:1) Mori A and Hojito M (2011) Soil Sci. Plant Nutr. 57 (1):138-149