肥育豚への低蛋白質飼料導入の温室効果ガス削減ポテンシャル評価

要約

肥育豚に結晶アミノ酸を添加したバランスの良い低蛋白質飼料を給与することで、生産性に影響することなく排せつされる窒素が28.7%削減され、これらのふん尿管理(汚水浄化と堆肥化処理)から発生する温室効果ガスを39.1%削減できる。

  • キーワード:温室効果ガス、温暖化、家畜排せつ物、豚、アミノ酸、汚水処理
  • 担当:畜産草地研・畜産温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8611
  • 区分:畜産草地 
  • 分類:行政・普及

背景・ねらい

家畜排せつ物の管理・処理過程から発生する温室効果ガス (GHG)は国家総排出量の0.6%、畜産排出の51%に達すると算定され削減が求められている。しかし、家畜排せつ物は畜種や飼養形態などによって様々な性状を呈し、それぞれの利用目的に合わせて管理等が行われる。このため多岐にわたるふん尿の管理条件を考慮した技術改善によるGHG削減は容易ではない。
生産性を犠牲にせずに排せつされるふん尿中の窒素量が削減できれば、特に温暖化係数(GWP)の高い一酸化二窒素発生量を低減させることができる。既往の窒素排泄量低減技術である肥育豚への低蛋白質飼料給与のGHG削減ポテンシャルを実測によって検証する。

成果の内容・特徴

  • 対照飼料(対照区:蛋白質含量17.1%、アミノ酸は添加しない)に対してアミノ酸添加低蛋白質飼料(低CP区:蛋白質含量14.5%、リジン、メチオニン、トレオニン、トリプトファンを添加した低蛋白質飼料)の給与により飼養成績に影響することなく肥育豚(体重30-40kg)の総窒素排泄量が28.7%低減される(図1上段:飼養試験)。
  • 低CP区のふん尿を、養豚農家で導入事例の多い管理方法で実際に処理して発生するGHGを対照区の結果と比較した(図1下段:ふん尿処理試験)。80%のふんは強制通気型堆肥化を、全ての尿と一部混合するふん(20%)の混合汚水については活性汚泥法による浄化を選択して処理試験を行った結果、堆肥化処理では両区で同量のGHG発生があったのに対し、浄化処理では低CP区のGHG発生が43.0%低くなる(図1)。
  • 飼養試験と排せつされたふん尿を実際に処理して評価した本試験で得られた結果から計算すると、低蛋白質飼料の給与により1日あたり豚の肥育で31g程度の窒素(約195gの蛋白質)を蓄積するために、ふん尿として生じる窒素排出量は31.0gから22.1g(71.3%)に削減し、ふんの堆肥化処理と尿汚水の汚水浄化処理から発生する総GHG発生量は対照区の219.0g/日/頭から133.4g/日/頭(60.9%)に削減される(図1下段)。
  • 低蛋白質飼料給与によるGHG削減は、主に尿中窒素排出量を対照区の59.4%に削減することが反映された結果である。このため、豚尿汚水を浄化処理する経営が多い日本の養豚経営では低蛋白質飼料導入によるGHG削減効果は効果的である。

成果の活用面・留意点

  • 低蛋白質飼料導入によるGHG削減量が定量的に検証されたことから、削減量が把握しやすい温暖化抑制対策として導入が進むものと期待される(環境省オフセット・クレジット(J-VER: Verified Emission Reduction)の方法論として22年7月に掲載された)。
  • 肥育豚の不断給餌飼養条件で得られた結果である。
  • ふん尿処理試験は管理条件が良好な試験装置による結果で、対照区のGHG発生は日本の同処理区分の発生係数より低い。
  • 低蛋白質飼料導入時に変化するGHG以外の環境負荷やアミノ酸製造に関わる追加的な環境負荷などを精査・評価する必要がある。

具体的データ

低蛋白質飼料(低CP 区)と通常飼料(対照区)の窒素フローと温室効果ガス(GHG)発生量

その他

  • 研究課題名:気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 中課題整理番号:215a.6
  • 予算区分:資金提供型共同研究(味の素)、委託プロ(温暖化)
  • 研究期間:2010年度
  • 研究担当者:長田隆、高田良三(新潟大学)、新里出(味の素)
  • 発表論文等:Osada T. et al (2011) Anim. Feed Sci. Technol. 166-167:562-574