トウモロコシ品種の耐湿性と畝立て播種及び肥効調節型肥料の湿害軽減効果

要約

飼料用トウモロコシ品種の幼苗検定での耐湿性程度は、生育期間中の約3割が地下水位10cm以上となる圃場での耐湿性程度に一致する。耕うん同時畝立て播種及び肥効調節型肥料の湿害軽減効果は、高地下水位期間が長いほどその効果が大きい。

  • キーワード:畝立て播種、肥効調節型肥料、耐湿性、トウモロコシ
  • 担当:畜産草地研・飼料作生産性向上研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8611
  • 区分:畜産草地
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

飼料用トウモロコシの作付面積の12%は水田転換畑となっているが、トウモロコシは湿害に弱いために排水が良好な転換畑以外では他の飼料作物の選択を余儀なくされている。今後、トウモロコシの作付面積を拡大させるためには湿害軽減技術の開発が不可欠である。このため、本研究では、飼料用トウモロコシの湿害軽減技術として、耐湿性の高い品種の選定と活用法、並びに畝立て播種法及び肥効調節型肥料の活用技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 飼料用トウモロコシ23品種を供試し、播種後2週間目の幼苗について12日間の湛水処理を行い、対照区との乾物重の差から幼苗の耐湿性指数を評価すると、耐湿性指数が低い「31N27」に比較し、「KD750」及び「SH9904」は耐湿性指数が有意に高い(表1)。
  • 幼苗の耐湿性指数が高かった2品種及び中~低の5品種を高地下水位期間(地下水位10cm以上)の割合が異なる2圃場で栽培すると、生育期間中の約3割が高地下水位となる圃場では、幼苗の耐湿性指数が低い「31N27」に対し、耐湿性指数が高い「KD750」の乾物収量が有意に高くなるが、生育前期にのみ一時的な湛水が生じる圃場では品種間差が認められない(表2)。
  • 耕うん同時畝立て播種及び肥効調節型肥料(LPコート100;N、P2O5、K2Oの各成分14%)の湿害軽減効果は高地下水位期間が長いほどその効果が大きく、高地下水位期間の割合の常用対数と増収効果の常用対数との間には有意な相関が認められる(図1)。
  • 高地下水位期間が11~24%の2圃場での実証試験では、畝立て播種及び肥効調節型肥料はそれぞれ15%及び23%の増収効果が得られる(図2)。肥効調節型肥料区では11%の生産費低減効果が得られると試算され、畝立て播種により同水準の生産費低減効果を得るには約2haの栽培規模が必要と推定される。しかし、肥効調節型肥料と畝立て播種を組み合わせた場合は生産費低減効果が得られない。

成果の活用面・留意点

  • 湿害発生圃場での飼料用トウモロコシ栽培のための基礎的資料となる。
  • 耕うん同時畝立て播種は市販のアップカットロータリ(作業幅170cm用)と1条用施肥播種機2台を組み合わせた2条用の耕うん同時畝立て播種機を用いて行った(両機の定価合計は1,037千円)。
  • 生産費低減効果の試算では、図2において化成肥料・慣行播種区(湿害発生条件)の10a当たり生産費を都府県平均値と同じと仮定し、TDN1kg当たりの生産費を53円/kgと推定。肥効調節型肥料区では肥効調節型肥料の価格を化成肥料の2倍(2,800円/20kg)と仮定し、生産費を47円/kgと推定。畝立て播種区では播種法の変更による労働費の変化が生じないと仮定。

具体的データ

幼苗検定における耐湿性指数全生育期間中の高地下水位期間(地下水位 10cm以上)の割合が異なる2圃場でのトウモロ コシ品種の乾物収量

 

 

トウモロコシ生育期間中の地下水位10cm 以上の期間の割合と畝立て播種及び肥効 調節型肥料による増収効果との関係畝立て播種及び肥効調節型肥料の湿害軽減 効果及び生産費低減効果

その他

  • 研究課題名:飼料生産性向上のための基盤技術の確立と土地資源活用技術の開発
  • 中課題整理番号:212e.1
  • 予算区分:基盤、委託プロ(えさプロ、国産飼料プロ)
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:菅野 勉、森田聡一郎、佐藤節郎、黒川俊二、住田憲俊、須永義人、伊吹俊彦、井上秀彦、澤村篤、
                       細川寿、間野吉郎、中尾誠司
  • 発表論文等:1)Kanno et al. (2008) Proc 21th Int Grassl Congr Vol.2:589
                        2)菅野ら(2010)日本草地学会誌、56(3):211-214