豚の遺伝的パラメーターを高精度で推定するための指標

要約

豚において、産子数のような限性形質では個体数が500頭を超えると推定精度が安定する。複数の産次に共通な環境である永続的環境分散および誤差分散は各産次の記録数が不揃いなほど推定精度が低下し、相加的遺伝分散はその影響を受けない。

  • キーワード:遺伝的パラメーター、分散成分、遺伝率、豚
  • 担当:畜産草地研・家畜育種増殖研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8611
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

家畜の遺伝的能力を評価するためには、あらかじめ当該集団における遺伝的パラメーターを高い精度で推定しておく必要がある。そこで、豚集団における評価形質の特性、集団のサイズ、選抜の有無、各産次の反復記録数等と遺伝的パラメーターの推定精度との関係をモンテ・カルロ法によるコンピュータシミュレーションによって明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 無作為選抜集団における遺伝率の推定誤差は、表型選抜集団に比べて僅かに小さくなり、集団のサイズが大きくなるとともに減少する(図1)。
  • 産子数のような限性形質では、記録を持つ個体数が500頭未満のとき、相加的遺伝分散は過大推定され、誤差分散は過小推定されるため、結果として遺伝率は過大推定される。また、各分散成分の推定誤差は記録を持つ個体数の増加とともに急激に減少し、個体数が500頭を超えるとその減少量は緩やかになる(図2)。一腹あたりの雌の育成頭数が1頭の場合、5世代以上の記録を用いても、遺伝率の推定精度の向上は望めない。
  • 産次による反復記録を用いる場合、相加的遺伝分散およびその推定誤差は産次数および各産次の記録数における不揃いの程度による影響を受けない。この場合、誤差分散は僅かに過大推定される傾向にあるが、遺伝率や反復率の推定値への影響は小さい。また、永続的環境分散および誤差分散における推定誤差は、各産次の記録数が不揃いになるほど大きくなる。さらに、これらの推定誤差は産次数の多い記録ほど小さくなる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 遺伝的パラメーターを高い精度で推定するために、様々な特性をもつ豚のフィールドデータから有用な情報を取捨選択する際の指標として利用できる。
  • 豚系統造成の初期世代など、十分な記録数を確保できない場合がある。そのような集団において遺伝的パラメーターを推定する場合、その推定精度の指標となる。

具体的データ

集団のサイズと選抜が遺伝率の推定に及ぼす影響

 

限性形質における分散成分の推定値(上)とその推定誤差(下)

 

記録の総数が一定で、各産次における記録数の割合が異なる ときの遺伝的パラメーターの推定値

その他

  • 研究課題名:家畜生産性向上のための育種技術及び家畜増殖技術の開発
  • 中課題整理番号:212j
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者:佐藤正寛、佐々木修、石井和雄、西浦明子
  • 発表論文等:
    1) 佐藤 (2009) 日豚会誌、46(1): 1-6
    2) 佐藤 (2009) 日豚会誌、46(1): 17-24
    3) 佐藤ら (2009) 日豚会誌、46(3): 152-158