ポリジメチルシロキサン製マイクロウェルプレートを用いたウシ胚の培養
要約
ポリジメチルシロキサン製マイクロウェルプレートは個々のウシ胚や透明帯除去胚の培養に効果的である。
- キーワード:ウシ、マイクロウェル、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、胚、培養
- 担当:畜産草地研・高度繁殖技術研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-8611
- 区分:畜産草地
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分類:研究・参考
背景・ねらい
ウシ体外受精卵を個別に培養すると集団(多数胚)で培養する場合に比べ、発生率が著しく低いことが知られており、胚自身から分泌される胚発育促進因子等の不足が原因といわれている。近年、優秀な後継牛作出のため、経膣採卵で採取した卵子を用いた体外受精による胚生産が行われているが、個体別に体外受精・培養する場合,卵子数が少ないため、移植可能な胚への発育が低いことが問題となっている。
また、透明帯除去胚を培養する場合、胚間の融合防止や割球を接着させるため、マイクロウェル(小穴)に胚を入れて培養するWOW (Well of Well) 法が用いられている。しかし、WOW法に用いるウェルはハンドメイドで作製するため、大きさや形状が一定ではない。
そこで画一的なウェルを有するポリジメチルシロキサン(PDMS)製マイクロウェルプレートを用い、胚の個別培養および透明帯除去胚の培養に利用可能か検討する。
成果の内容・特徴
- PDMS製マイクロウェルプレート(PDMS-MP、図1A)のマイクロウェル(小穴)の形状は図1Bに示すような深さ200μmの椀型である。PDMS-MPを培養シャーレの中に置き、マイクロウェルを培養液で覆い、オイルカバーし、発生培養に用いる(培養液で覆うマイクロウェルの数と培養液量は培養胚数に応じて調節する)。
- PDMS-MPの各マイクロウェルで個々に培養された体外受精胚の体外発生能について調査したところ、培養7日後の胚盤胞期胚への発生率は、集団で培養された対照胚と同等な値を示す。また、細胞数や内部細胞塊の割合についても差は認められない(表1)。
- PDMS-MPの各マイクロウェルで培養された単為発生刺激後の透明帯除去卵子(図1C)の体外発生能(培養7日後の胚盤胞期胚への発生率や胚盤胞の細胞数)は、透明帯を除去していない対照胚や培養皿の底に針で作製したウェルで個々に培養するWOW法で培養された胚と比べて差は認められない(表2)。
- 以上のことからPDMS-MPを用いた培養システムは個々のウシ胚や透明帯除去胚の培養に効果的である。
成果の活用面・留意点
- 胚の体外培養の全期間にわたって胚の識別が可能となるので、複数の個体由来卵子を1つのプレートで培養できる。それにより、個別培養で認められる発生率低下の改善が可能となる。また、個々の胚の経時的観察の実験等にも活用できる。
具体的データ



その他
- 研究課題名:高品質畜産物生産のためのクローン牛等の安定生産技術の開発
- 中課題整理番号: 221n
- 予算区分:異分野融合
- 研究期間:2005~2009年度
- 研究担当者:赤木悟史、松川和嗣、高橋清也
- 発表論文等:Akagi S. et al. (2010) J.
Reprod. Dev. 56(4):475-479