飼料畑の深耕による放射性セシウムの下層埋設と空間線量率の低減

要約

飼料用トウモロコシ生産圃場においては、プラウ耕により、土壌表層の放射性セシウムを深さ20~30cm程度に埋め込むことで、圃場の空間線量率を効果的に減少させることが可能である。

  • キーワード:耕起法、空間線量率、飼料用トウモロコシ、深耕、放射性セシウム
  • 担当:自給飼料生産・利用、大規模飼料生産
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・飼料作物研究領域、家畜飼養技術研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故以降、東日本の広い範囲で放射性セシウムが飼料畑や牧草地の土壌に沈着した。このため、飼料生産においては作業従事者の外部被曝を抑えつつ、飼料作物への放射性セシウムの移行を低減させることが重要な課題となっている。そこで、本研究では飼料用トウモロコシ栽培において、耕起方法の違いが放射性セシウムの垂直分布、圃場の空間線量率、および土壌から作物体への放射性セシウムの移行に及ぼす影響について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 浅層ロータリ耕、プラウ耕、深耕プラウ耕の3種の耕起方法により、トウモロコシを作付けした場合、プラウ区、深耕プラウ区では耕起により土壌表層の放射性セシウムが下層へ埋設される(図1)。トウモロコシ播種後の表層土壌中(0~10cm)の放射性セシウム濃度は、プラウ区および深耕プラウ区で、それぞれ浅層ロータリ区の51%および17%に低下する。
  • 各区の中央付近において地上1m及び1cmの高さで測定された空間線量率は、浅層ロータリ区>プラウ区>深耕プラウ区の順となる(図2)。プラウ区および深耕プラウ区の空間線量率は、未耕起に比較し、1m高で46~56%にまで減少することから、プラウ耕により圃場作業者の外部被曝が大幅に低減可能と考えられる。
  • トウモロコシの根の土壌中垂直分布を耕起法処理区間で比較した場合、いずれの層においても根乾物重に有意な差が認められず(図3)、耕起方法は根の土壌中垂直分布に大きな影響を与えない。
  • 収穫されたトウモロコシ作物体中の放射性セシウム濃度(乾物率20%換算原物当たり)は糊熟期(洗浄処理無し)が平均6.6Bq/kg、黄熟期(表面付着土壌の影響を取り除くため全個体洗浄)が平均4.4Bq/kgであり、耕起方法に関わらず低い値となる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 東北地方・関東地方の飼料畑における飼料生産従事者の外部被曝量低減化技術として活用できる。
  • 黄熟期の調査では、収穫直前の降雨による飛散土壌の影響を取り除くため、収穫個体を洗浄して放射性セシウム濃度の測定に供した。

具体的データ

図1 耕起方法の違いが放射性セシウムの土壌中垂直分布に及ぼす影響図2 耕起方法の違いが圃場の空間線量率に及ぼす影響
図3 耕起方法の違いが根の土壌中垂直分布に及ぼす影響図4 耕起方法の違いがトウモロコシの放射性セシウム濃度に及ぼす影響

(菅野 勉)

その他

  • 中課題名:大規模作付けに適した飼料作物の省力的安定多収栽培技術の開発
  • 中課題番号:120c1
  • 予算区分:実用技術開発事業
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:菅野勉、原田久富美、伊吹俊彦、天羽弘一、阿部佳之、住田憲俊、井上秀彦、小島陽一郎、森田聡一郎、佐藤節郎