豚ペプチドグリカン認識タンパク質3および4のクローニングとその細胞・組織発現

要約

豚ペプチドグリカン認識タンパク質3および4の構造遺伝子全長は1,125bpである。本タンパク質は、分泌型あるいは膜結合型として細胞レベルで局在する。本タンパク質は、消化管組織において顕著に発現し、特に食道において最も強く発現する。

  • キーワード:豚、腸管免疫、自然免疫、イムノバイオティック乳酸菌
  • 担当:自給飼料生産・利用・高機能飼料
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜飼養技術研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ペプチドグリカン認識タンパク質は、自然免疫系の重要な因子であり、微生物細胞壁ペプチドグリカンの分解活性を有する抗菌性タンパク質である。本研究は、豚腸管における腸内細菌と本タンパク質の相互作用の観点から、本タンパク質の遺伝子全長配列を解読後、細胞および組織レベルでの発現分布を明らかにすることを目指したものである。本研究成果を基礎として、本抗菌性タンパク質が関与する生体防御システムを活用した抗菌性飼料添加物に頼らない豚飼養技術の開発に繋げることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 豚食道よりクローニングされたペプチドグリカン認識タンパク質3および4の構造遺伝子全長は1,125bpであり、374残基のアミノ酸をコードする。
  • ペプチドグリカン認識タンパク質3および4は、出生直後の初生および成豚のすべての供試組織において発現している(図1)。
  • 初生および成豚において、ペプチドグリカン認識タンパク質3は消化管組織に顕著に強く発現しており(免疫系組織の脾臓および腸間膜リンパ節の約100倍以上)、食道において最も強い発現が認められる(図1aおよびb)。
  • 初生および成豚において、ペプチドグリカン認識タンパク質4は消化管組織に顕著に発現しており、食道に最も強く発現する(図1cおよびd)。脾臓に対する消化管組織の相対発現量は、初生豚では約2~6倍であるに対して、成豚では数十から数百倍以上になることから(図1cおよびd)、成長過程における外来抗原暴露などによる本タンパク質の発現増強が示唆される。
  • 本タンパク質ファミリーの遺伝子強制発現解析の結果(図2a)、ペプチドグリカン認識タンパク質1,3および4は細胞外に分泌されることが認められる(図2b)。ペプチドグリカン認識タンパク質1は細胞表面に発現しておらず、ペプチドグリカン認識タンパク質2は細胞表面に強く発現する(図2c)。ペプチドグリカン認識タンパク質3および4は、分泌型のみならず細胞膜結合型としても存在する(図2bおよびc)。

成果の活用面・留意点

  • 豚ペプチドグリカン認識タンパク質3および4の遺伝子配列は、三大国際DNAデータバンク(DDBJ/EMBL/GenBank)に登録しており(登録番号AB295597およびAB292178)、各国際DNAデータバンクウェブサイトから誰でも利用可能である。
  • 消化管組織の中でも、特に食道において本タンパク質の強い発現が認められることから、胃酸性条件以前の局面におけるイムノバイオティック乳酸菌を含む腸内細菌と本タンパク質の認識・分解活性との関係に興味が持たれる。
  • 今後、本タンパク質が関与する生体防御機構に着目した豚の抗菌性飼料添加物代替法の確立のための基礎データとして活用できる。

具体的データ

図1 リアルタイムPCR法によるペプチドグリカン認識タンパク質3および4の組織発現解析
図2 各遺伝子強制発現細胞におけるペプチドグリカン認識タンパク質(PGLYRP)1-4の細胞局在

(遠野雅徳)

その他

  • 中課題名:国内飼料資源を活用した高機能飼料の調製利用技術の開発
  • 中課題番号:120c7
  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:遠野雅徳、植田渉(東北大院農)、島津朋之(東北大院農)、藤江瞳(城西大院薬)、麻生久(東北大院農)、川井泰(東北大院農)、沼崎宗夫(城西大院薬)、齋藤忠夫(東北大院農)、北澤春樹(東北大院農)
  • 発表論文等:Tohno M and Ueda W et al. (2011) Vet. Immunol. Immunopathol., 143: 148-154.