イムノバイオティック乳酸菌による自然免疫系NLRP3細胞内受容体の発現増強

要約

豚NLRP3の構造遺伝子全長は3,108bpであり、初生期の消化管組織における発現は弱く、成熟期の腸管免疫系で強く発現する。イムノバイオティックLactobacillus属乳酸菌株の刺激により、腸管免疫系由来細胞におけるNLRP3遺伝子の発現が増強する。

  • キーワード:豚、腸管免疫、自然免疫、イムノバイオティック乳酸菌
  • 担当:自給飼料生産・利用・高機能飼料
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜飼養技術研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

Nucleotide-binding domain-like receptor family, pryin domain containing 3 (NLRP3)は、細胞内外ストレスや病原微生物等の危険シグナルを認識し、的確な免疫応答を誘導する上で重要な細胞内受容体である。NLRP3受容体による危険シグナル認識機構の成立のためには、本受容体自体の発現増強が第一ステップであることから、Lactobacillus属乳酸菌株によるNLRP3遺伝子の発現増強作用について検討する。本研究により、豚における自然免疫系分子に着目しながら、イムノバイオティクスをアンチバイオティクスの代替として活用した場合の詳細な免疫制御機構の一端を解明することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 豚回腸パイエル板よりクローニングされたNLRP3受容体の構造遺伝子全長は3,108bpであり、1,036残基のアミノ酸をコードする。
  • NLRP3は、出生直後の初生および成豚のすべての供試組織において発現している(図1)。
  • 初生豚において、各種消化管組織におけるNLRP3遺伝子の発現は、脾臓や腸間膜リンパ節に比べて顕著に弱い(図1a)。
  • 成豚において、NLRP3遺伝子の発現は、腸管免疫系の組織であるパイエル板および腸間膜リンパ節に顕著に認められる(図1b)。初生期と異なり、食道を除く消化管組織におけるNLRP3発現量は、脾臓における発現量と同等であることから(図1b)、成長過程における外来抗原や腸内細菌叢の発達などにより、消化管組織における本受容体の発現が増強されることが示唆される。
  • 微生物由来成分である細胞壁リポペプチド、細胞壁ペプチドグリカン断片およびDNA成分刺激により、初生および成豚の腸管免疫系においてNLRP3遺伝子の発現が誘導される(図2)。また、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus NIAI B6とLactobacillus gasseri JCM1131Tの乳酸菌体刺激により、NLRP3遺伝子の発現が誘導される(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 豚NLRP3遺伝子配列は、三大国際DNAデータバンク(DDBJ/EMBL/GenBank)に登録しており(登録番号AB292177)、各国際DNAデータバンクウェブサイトから誰でも利用可能である。
  • 本研究により、腸管免疫系において、イムノバイオティック乳酸菌がNLRP3受容体を介する危険シグナル認識機構の成立に寄与することが示唆される。
  • 特に、本受容体の発現が弱い初生期の消化管組織において、イムノバイオティック乳酸菌刺激による本受容体を介する免疫機構の早期確立が可能であると期待される。

具体的データ

図1 リアルタイムPCR法によるNLRP3の組織発現解析
図2 初生および成豚の腸間膜リンパ節および回腸パイエル板由来細胞におけるNLRP3の発現誘導

(遠野雅徳)

その他

  • 中課題名:国内飼料資源を活用した高機能飼料の調製利用技術の開発
  • 中課題番号:120c7
  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:遠野雅徳、下里剛士(信州大院農)、麻生久(東北大院農)、北澤春樹(東北大院農)
  • 発表論文等:Tohno M et al. (2011) Vet. Immunol. Immunopathol., 144: 410-416.