体外成熟培地へのウシ卵胞液添加はウシ体外成熟卵子のATP量を増加させる
要約
ウシ卵胞液添加培地で培養することでウシ体外成熟卵子のATP量は増加するが、体外受精後の胚盤胞期への発生率は変わらない。また、卵胞液存在下では、電子伝達系阻害剤添加によるストレスに伴う卵子のATP量の減少が軽減され、受精率は低下しない。
- キーワード:ウシ、体外成熟卵子、卵胞液、ATP量、発生率、電子伝達系阻害剤、受精率
- 担当:家畜生産・有用家畜作出
- 代表連絡先:電話 029-838-8611
- 研究所名:畜産草地研究所・家畜育種繁殖研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ウシの体外受精技術において、卵子の体外成熟技術は体外受精卵作出効率を向上させるために重要である。しかし、体外成熟卵子は体内成熟卵子と比較して、体外受精後の胚発生率が低いため、体外成熟培地の改善が必要である。近年、低品質卵子における低い胚発生と卵子内のミトコンドリアにおけるATP産生が関係していることが報告されている。一方で、哺乳類の卵胞液は、卵子内のミトコンドリア活性を高くすることが知られている。そのため、ウシ卵胞液が卵子内のミトコンドリアの活性に及ぼす影響を調査するとともに、ウシ卵子の受精および胚発生におけるATPの重要性を明らかにする。
成果の内容・特徴
- ウシ卵胞液を5%、成熟培地に添加する(卵胞液添加区)と、0.3%ポリビニルピロリドン添加成熟培地(タンパク質無添加)と比較して、体外成熟卵子内の活性型ミトコンドリアの分布が変化し(図1A,B,C)、ATP量が有意に向上する(図2)。したがって、ウシ卵胞液にはミトコンドリアを活性化する成分が含まれていると考えられる。
- ウシ卵胞液を5%、成熟培地に添加しても、成熟率と体外受精後の胚発生率は向上しない(表1)。
- 卵子活性の指標となるATP量と受精率の関係を明らかにするために、体外成熟後に卵丘細胞を完全に取り除いた卵子に、一時的に電子伝達系阻害剤であるロテノン処理を加え強制的に卵子内のATP産生量を減少させると、卵胞液添加の有無に関わらずATP量が減少し、卵胞液無添加区では体外受精時の受精率も低下する。ところが、卵胞液添加区では、ATP量の減少が軽減され、受精率は低下しない(図2、3)。
- ATP量が1pmol以下になると受精率が低下する(図2、3)ことから、卵子内のATP量は受精率に深く関与していると考えられる。
成果の活用面・留意点
- 新規の体外成熟培養液の開発の知見として参考になる。
- 卵子内のミトコンドリアの活性に関する要因の特定に重要である。
- 超低温保存した卵子などミトコンドリアにストレスがかかるような状況下での応用が見込まれる。
具体的データ
(ソムファイタマス、稲葉泰志)
その他
- 中課題名:生殖工学を用いた有用家畜作出技術の開発
- 中課題番号:130c0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2010~2011年度
- 研究担当者:ソムファイタマス、稲葉泰志、渡辺伸也、下司雅也、永井 卓
- 発表論文等:Somfai T. et al. (2012) Reprod. Fertil. Dev. 24(5):743-752
http://dx.doi.org/10.1071/RD11251