品種の異なる卵子を用いたクローン豚におけるミトコンドリア蛋白質の発現量差異

要約

梅山豚の体細胞をヨーロッパ系品種豚の卵子に核移植した体細胞クローン豚と梅山豚との網羅的比較解析により検出される肝臓ミトコンドリア可溶化蛋白質発現量の差異は、ミトコンドリア遺伝子の相違によるものでない。

  • キーワード:核移植、蛋白質発現、ミトコンドリア、豚、肝臓
  • 担当:家畜生産・有用家畜作出
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜育種繁殖研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

核を除核した卵子に移植する核移植法により誕生したクローン家畜のミトコンドリア遺伝子(mtDNA)は、ほぼ99%以上が卵子に由来する(図1、表)。mtDNAは電子伝達系を構成する蛋白質をコードしているが、産子にみられるmtDNA型の違いが及ぼす影響の解明は不十分である。本研究では、mtDNA塩基配列の相違が明瞭な梅山豚とヨーロッパ系品種であるランドレース間の核移植産子について、肝臓ミトコンドリア可溶化蛋白質の網羅的解析による発現量差異を検出し、その影響を解明することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 中国系品種である梅山豚のmtDNA蛋白質コード領域の塩基配列14098bpを明らかにしたところ (DDBJ AB292606)、ランドレースとは、172の塩基置換および28個のアミノ酸変異がある。
  • 梅山豚(3頭;6~7歳、雌)およびランドレース(3頭;2歳、雌)における肝臓ミトコンドリアの可溶化蛋白質の蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動 (2D DIGE)解析により、2倍以上の発現量差異のあるスポットが3個検出され (P<0.05)(図2)、これらはいずれも梅山豚で高発現量を示す。
  • 梅山豚胎子線維芽細胞およびランドレースもしくはLW(ランドレース♀×大ヨークシャー♂)の除核卵子により作出したクローン豚(3頭;3~9歳、図1)について、対照群として梅山豚(3頭;6~7歳、雌)を用いた2D DIGE解析により、蛋白質発現量差異のあるスポットが検出される(P<0.05)(図3)。これらの相違は2において検出された梅山豚とランドレース間の相違とは一致しない。
  • 3においてクローン豚に共通して発現量に差異が検出された蛋白質スポットのうち2個のスポットは、電子伝達系以外の核ゲノムがコードしているhydroxymethylglutaryl-CoA合成酵素と非特異的lipid-transfer proteinと同定された(図3)。したがってクローン豚で検出されたこれらの差異は,用いた卵子のmtDNA塩基配列の相違に因るものではない。

成果の活用面・留意点

  • 解析したクローン豚は生存性の確認のために高齢になっても飼養されたが、起立不能などの症状が現れたために屠畜された。クローン豚で検出されたhydroxymethylglutaryl-CoA合成酵素等の差異は、クローン豚の栄養状態を反映している可能性がある。

具体的データ

図1 mtDNAの塩基配列が異なる梅山豚(M;核側)およびヨーロッパ系品種豚(ランドレース(L)/LWD;卵子側)を用いて作成されたクローン豚(Onishi et al., 2000; Iwamoto et al., 2003)のmtDNAは99%以上が卵子(L)由来である(表参照、Takeda et al.,2006)。表 解析材料とmtDNA型
図2 梅山豚とランドレースとの間に検出された蛋白質発現量差異図3.体外成熟培地へのウシ卵胞液添加および成熟培養後のロテノン処理がウシ体外成熟卵子の受精率に及ぼす影響

(武田久美子)

その他

  • 研究課題名:生殖工学を用いた有用家畜作出技術の開発
  • 中課題番号:130c0
  • 予算区分:交付金プロ(クローン牛)
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:武田久美子、太齊真理子、大江美香、千国幸一、田上貴寛、韮澤圭二郎、中村隼明(信州大)、花田博文(東農大)、岩元正樹(プライムテック)、大西彰(生物研)、Carl A. Pinkert (Auburn大)
  • 発表論文等:Takeda K. et al. (2012) J. Reprod. Develop. 58(3):324-329