ウシ核移植産子に検出された肝臓ミトコンドリア蛋白質発現量の差異

要約

肝臓ミトコンドリア可溶化蛋白質の網羅的な比較解析により、正常に発育した同一細胞株由来体細胞クローン牛間の個体差が検出される。また、生後まもなく死亡した体細胞クローン牛において細胞死に関連する蛋白質発現量の差異が検出される。

  • キーワード:核移植、蛋白質発現、ミトコンドリア、肝臓、クローン牛
  • 担当:家畜生産・有用家畜作出
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜育種繁殖研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

核移植によるクローン牛の生産率は依然として低く、卵子細胞質へ移植された体細胞核の初期化が不完全な場合、DNAメチル化レベルや遺伝子発現異常がみられることが明らかとなっている(Niemann et al., 2008; Dinnyes et al., 2008)。しかし、ミトコンドリアに関連する遺伝子発現異常や核とミトコンドリアの由来の違いがタンパク質の発現にも影響を及ぼすかどうかは不明である。そこで本研究では、正常に発育した同一細胞株由来体細胞クローン牛および生後まもなく死亡した体細胞クローン牛について、肝臓ミトコンドリア可溶化蛋白質の網羅的解析による発現量差異を検出し、その影響を解明することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 同一細胞株(黒毛和種卵丘細胞)に由来するクローン成牛4頭(表、CA1-4)のミトコンドリア遺伝子(mtDNA)型はそれぞれ異なっており、うち2頭(CA3-4)は細胞に由来するmtDNAが混在している(mtDNAヘテロプラズミー;図1)。
  • クローン成牛4頭と対照牛4頭との間でEttan DIGEシステム(GEヘルスケア社)による肝臓ミトコンドリア可溶化蛋白質発現差異解析を行うと、同一細胞株由来クローン牛間においても蛋白質発現量に個体差が検出される(図2-1)。
  • mtDNAヘテロプラズミー型のCA3-4からは2倍以上の蛋白質発現量差異は検出されないことから(図2-1)、核移植で生じたmtDNAヘテロプラズミーはミトコンドリア蛋白質発現量へは影響しない。また、mtDNA配列が他と異なっており(図1)、と場に由来する保存卵巣由来卵子を用いたCA1では多くの差異が検出されている。
  • 肝臓ミトコンドリア可溶化蛋白質において、斃死したクローン子牛6頭(CB1-6)と対照子牛9頭との間でアポトーシス(細胞死)に関連するadenosylhomocysteinase及びaldehyde dehydrogenase family 4 member A1と同定された蛋白質等に発現量差異が検出される。
  • クローン子牛間で肝臓ミトコンドリア可溶化蛋白質の発現量には変動がみられ(図2-2)、最も生時体重の重いCB6(70kg)では多くの差異が検出されるが、発現量差異と過大子(CB1、CB2、CB6)との関連性は認められない。

成果の活用面・留意点

  • 本結果は、タンパク質発現量差異を指標としたクローン家畜の新たな同一性評価法を提示するものである。
  • 本結果に用いたサンプルはすべて凍結過程を経ている。
  • 肝臓タンパク質は年齢や飼養条件により変化しやすいと考えられる。

具体的データ

表 解析に用いたクローン牛一覧
図1 同一ドナー細胞(D1)から生産したクローン成牛(CA1-4)のmtDNA型。CA3,CA4は混在型。図2 クローン牛にみられたミトコンドリア可溶化蛋白質の発現量差異。1)同一ドナー細胞から生産したクローン成牛個別(CA1-4)と対照牛との比較。2)斃死したクローン子牛個別(CB1-6)と対照牛との比較。

(武田久美子)

その他

  • 中課題名:生殖工学を用いた有用家畜作出技術の開発
  • 中課題番号:130c0
  • 予算区分:交付金プロ(クローン牛)
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:武田久美子、太齊真理子、赤木悟史、渡邊伸也、大江美香、千国幸一、亀山眞由美、田上貴寛、韮澤圭二郎、中村隼明(信州大)、松川和嗣(高知大)、花田博文(東農大)
  • 発表論文等:Takeda K. et al. (2011) Mol. Reprod. Dev. 78:263-273